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難民少女イラスト騒ぎ BBCが1面で紹介 「排除の論理」で自分の首絞める日本

木村正人在英国際ジャーナリスト
BBC電子版の1面で報じられた日本の難民少女イラスト騒動

風刺漫画は人種差別か

「はすみとしこの世界」というフェイスブック・アカウントに「そうだ難民しよう!」という難民少女のイラストが投稿された騒動が8日、英BBC放送サイトのトップページに掲載された。

漫画家はすみとしこさんのイラストは日本国内で「酷い」と炎上し、日本の英字紙ジャパン・タイムズが「『レイシスト(差別主義者)』の難民イラストが日本のネチズンの怒りを買っている」と海外向けに報道する騒ぎになった。

世界で話題沸騰中のストーリーを取材班が追跡するBBC Trendingが「6歳のシリア少女の風刺漫画は人種差別か」と題して今回の騒動を取り上げた。はすみさんを右翼漫画家と位置づけている。はすみさんが旧日本軍慰安婦に疑いを投げかける反韓メッセージを投稿していることも紹介している。

はすみさんはBBCの取材に対し、「シリア難民を侮辱するイラストが『レイシズム』であるとFacebookは認めてください」とオンライン上で署名活動をしているのは左翼活動家だと思うと回答。

「私は多くの政治漫画を描いてきました。それは署名活動を始めた人たちにとって都合の良いものではありません。それが彼らが私を標的にした理由です」と説明している。

シリア人が強いられている恐怖を理解して

無断で難民の少女を撮影した写真をトレースされた英国在住の写真家ジョナサン・ハイアムズさんからの削除要請を受け、はすみさんは7日、自らのフェイスブックからイラストを削除した。

ハイアムズさんは国際子供支援団体セーブ・ザ・チルドレンの職員で、無断でトレースされた問題の写真はシリア国境に近いレバノンの難民キャンプで撮影したものだ。セーブ・ザ・チルドレンは筆者の問い合わせに、こうコメントした。

写真家ジョナサン・ハイアムズさんの写真(セーブ・ザ・チルドレン提供)
写真家ジョナサン・ハイアムズさんの写真(セーブ・ザ・チルドレン提供)

「セーブ・ザ・チルドレンはこの写真が使われたことをとても悲しんでいます。写真は、私たちの、もしくは写真家の許可なく使用されました」

「シリアの人々がくぐり抜けなければならない進行中の恐怖を世界中の人々が理解するのを助けるため、シリアの少女の家族は少女の写真を使用することに同意しました」

「それと正反対の文脈で、そして少女の尊厳をひどく傷つける方法で使用することを、少女の家族、難民全員が許容できません。今は、写真が取り除かれたことにホッとしています」

難民受け入れを「人口問題」で答えた安倍首相

法務省によると、2014年の難民認定申請者は前年比1740人増の5千人と過去最多を更新したが、認定者数はわずか11人。人道的な配慮が必要として在留を認めた者は110人だった。

安倍晋三首相は先の国連演説で「シリア、イラクの難民、国内避難民に向けた支援を一層厚くする。今年は8.1億ドル(約974億円)で昨年実績の3倍となる」と強調した。難民が通過するセルビアとマケドニアなどに約250万ドル(約3億円)を提供することもアピールした。

しかし、質疑応答で日本は難民を受け入れるのかと聞かれ、安倍首相はこう答えた。

「人口問題として申し上げれば、我々はいわば移民を受け入れるよりも前にやるべきことがあり、それは女性の活躍であり、あるいは高齢者の活躍であり、そして出生率を上げていくにはまだまだ打つべき手があるということでもあります」

欧州連合(EU)はこのほど全体でシリアなどの難民を16万人受け入れることを決めた。それぞれの国の人口や経済状況に基づく自主的な割当制に応じて、ドイツは約4万人、フランスは約3万人を受け入れる。これに対し、日本が受け入れたシリア難民はわずか3人だ。

シリア難民408万9千人(今年8月末時点)の9割以上はトルコ193万人、レバノン111万人、ヨルダン62万人、イラク25万人、エジプト13万人と周辺国にとどまっている。

難民受け入れはプラス

紛争や迫害を逃れるため国外に脱出する難民を受け入れるのは「人道上の責務」であって「人口問題」ではない。しかし労働力不足が顕著になっているドイツや日本の経済にとって難民の受け入れはプラスになる可能性を秘めている。

まずドイツの潜在的な労働力人口の推移をみてみる。独誌シュピーゲル電子版によると、2010年7月時点で39万1千人だった労働力不足は今年7月には58万9千人に。実習生の不足も10年9月の1万9600人から昨年9月には3万7100人に膨らんでいる。

出典:独誌シュピーゲル
出典:独誌シュピーゲル

潜在的な労働力人口は11年の4500万人から、移民の出入りがなければ30年には3600万人にまで減少すると予測されている。ドイツが労働力不足に対応する道は2つある。

移民や難民にもっと門戸を開放するか、ロボットを大量に導入して製造業だけでなく非製造業でも無人化を進めるかだ。ロボットを大量に導入しても消費は増えない。電気代がかさむかもしれないが。

日本もドイツ以上に労働力不足の問題を抱えている。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、労働力人口は10年の6632万人から30年には5900万人にまで減少していく。この穴を女性やお年寄りの労働参加を促したり、非製造業の無人化を進めたりするだけで埋められるのか。

出典:国立社会保障・人口問題研究所
出典:国立社会保障・人口問題研究所

大和総研「日本経済予測Monthly」の悲観的な試算によると、就業者数は15 年度、16 年度でそれぞれ34.3 万人、66.3 万人程度不足し、実質 国内総生産(GDP)では15 年度が 3.4 兆円、16 年度が 7.2 兆円程度下押しされるという。

グローバリゼーションによって世界各国で右と左のポピュリズムが台頭し、排外主義的なナショナリズムが強まっている。英国の一部メディアも排外主義をあおり立てている。しかし人、モノ、カネ、サービスが自由に国境を越える流れは加速することはあっても、押しとどめることはできない。

日本のような人口減少が深刻な国は「人口問題」から見ても難民の受け入れをもっと真剣に考えてみる必要がある。同質性が極めて高い日本もグローバリゼーションの進展とは無縁ではいられないからだ。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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