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ロシアの旅客機墜落は「イスラム国(IS)」の犯行? 世界に広がるISフランチャイズ

木村正人在英国際ジャーナリスト
224人乗りロシア機墜落 イスラム国が犯行声明(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

「IS関連の犯行」におわせた英外相

ロシアの航空会社「コガリムアビア」の旅客機が先月31日、エジプト東部のシナイ半島に墜落して乗客乗員224人全員が死亡した事件で、英国のキャメロン首相は5日、「エジプトで墜落原因について調査が進められている。これまでつかんでいる情報ではおそらくテロリストの爆弾が原因と考えられる」と発言した。

出典:Flightradar24
出典:Flightradar24

シナイ半島を拠点に活動する過激派組織「イスラム国(IS)」関連団体が、ロシアのシリア空爆に対抗してロシアの旅客機を墜落させたと犯行声明を出し、航空機が墜落する映像を公開している。米メディアは、米情報機関の話として、傍受した通信などからIS関連団体が旅客機に爆発物を仕掛けた可能性があると伝えた。

NHKは、ハモンド英外相が5日、地元の衛星テレビ局「スカイニュース」に出演、IS関連団体の主張について「さまざまな情報を検討した結果、かなりの可能性があるというのが結論だ」と述べ、IS関連団体が関与した可能性に言及したと報じた。

共同通信も同外相が、IS関連団体による犯行の可能性が「かなり高い」と英TVに発言したと報じた。英国の外相が公の場でIS関連団体による犯行の可能性が「かなり高い」と発言したのだから、大事である。IS空爆をイラク国内にとどめる英国が米国の要請に応じてシリアにも拡大するシナリオが浮上してくる。

「ISはアモルファス構造」

しかしハモンド発言を報じたメディアもあれば報じなかったメディアもある。筆者は電話で英外務省の広報に確認した。「外相の発言はテロ組織によって爆弾が仕掛けられた可能性を指摘したもので、ISを含め、どの組織とも特定していない」という回答だった。

ハモンド外相はBBCに発言内容を確認され、「墜落の原因をISに帰するのには注意を要する。ISはアモルファス構造(組織の形がはっきりしない)だ」と微妙に修正した。シリアのラッカにあるIS本部のコントロールが、特定の行動についてどの程度及んでいるかは大きな疑問だとも述べた。

エジプトのカマル民間航空相は5日、「(ロシアの旅客機が爆破されたとの)仮説を裏付ける証拠はまだ見つかっていない」と英米の主張を否定し、ロシアも「現段階では墜落原因をめぐるいかなるセオリーも憶測の域を出ない」と強調した。

英米両国にはこの事件で、ISの関与を強く印象付け、ロシアの空爆に対抗してシリアへの軍事介入を拡大させる思惑が透けて見える。

とりわけ英国ではシリア軍事介入に英国が参加することについて慎重な意見が強く、キャメロン政権は英議会にその是非を問うのをためらっている。保守党内からも造反が予想されるため、「シリア軍事介入を断念」というニュースも流れている。

2013年8月、シリアのアサド政権が化学兵器を使用したとされる問題で、英下院が懲罰的攻撃の承認を求める動議を否決し、いったんはオバマ米大統領にシリア軍事介入を断念させたことがある。このためキャメロン政権は英議会に軍事介入の是非を問うことに極めて神経質になっている。

中東・北アフリカで活発化するIS

米ワシントンのシンクタンク、戦争研究所(ISW)によると、IS関連団体は中東・北アフリカで活動を活発化させている。

10月6日

イエメンのIS関連団体が同国でサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などが使用する軍事・政治施設に対する4件の自爆攻撃を仕掛けたと表明。

9日

アフガニスタン・パキスタンのIS関連団体がカブールで初めて4件の攻撃を仕掛ける。カブールの宗教施設でイスラム教シーア派の参拝者を狙って即席爆発装置(IED)を爆発させる。

10日

トルコの首都アンカラで2件の自爆テロが起き、100人以上が死亡。トルコ当局はシリアのIS指導者が攻撃を指示したと指摘。

12日

ロシア当局がモスクワの公共交通システムの攻撃を計画した容疑で10人を拘束した。このうち何人かがシリアでISの訓練を受けたと発表。

14日

リビア西部のIS関連団体がシャリア法廷を開く。処刑や教科書の焼却、女性のヒジャブ(スカーフの一種)着用義務化の判断を下す。

16日

バーレーンのIS関連団体がサウジ東部のシーア派のモスク(礼拝所)で銃撃事件を起こす。

22日

ISがエルサレムでの暴力を称える動画をアラビア語に続いてヘブライ語でも出し、イスラエルやパレスチナ自治区でユダヤ人、パレスチナ自治政府の主流派ファタハとイスラム原理主義組織ハマスを攻撃するよう促す。

22日

ソマリアの国際テロ組織アルカイダ系アルシャバブの高級幹部がISへの忠誠を誓ったとアルシャバブ関係者が表明。これまでの数カ月間、ISへの逃亡とそれを防止するためアルシャバブ内での身柄拘束が相次いでいるとのウワサが流れる。

24日

ISがバングラデシュのダッカでシーア派の休日の集まりを狙って即席爆発装置の攻撃を3件仕掛けたと表明した。

31日

シナイ半島のIS関連団体がロシアの旅客機を墜落させたと表明。

7~9月の攻撃は1086件

一方、国際軍事情報会社IHSジェーンのテロリズム&反乱センター(JTIC)によると、今年第3四半期(7~9月)に過激派組織「イスラム国(IS)」が世界で起こした攻撃回数は1086件に達した。1日平均の攻撃回数は第2四半期(4~6月)の8.3件から42%増の11.8件に急増している。

ISの攻撃マップ(IHSジェーン提供)
ISの攻撃マップ(IHSジェーン提供)

非戦闘員の死者は2978人で1日平均32.4人、前期比で65.3%も増えた。攻撃の83%(902件)はISが勢力を広げてきたイラクとシリアに集中しており、前期比で235件増。非戦闘員の死者は1780人(全体の60%)を数えた。実数はもっと膨らむ。

ISはイラクやシリアに加えて、エジプト、リビア、イエメン、アフガニスタン、パキスタン、ナイジェリア、サウジアラビア、北コーカサス、アルジェリアでも領土を主張している。

英米の主要メディアはIS最高指導者アブ・バクル・アル・バグダディ・アル・フッセイニ・アル・クレシ(以下バグダディ)が空爆で重傷を負ったか、死亡したと報道した。イラク空軍も10月に入って、バグダディが乗った車両部隊を空爆したと発表したが、情報の真偽は確認されていない。

もし仮にバグダディが殺害されたとしても、世界各地で次々と新たな指導者が生まれているのが現状だ。ロシア旅客機の墜落がIS関連団体の犯行と断定された場合、シリア情勢は新たな局面を迎える可能性が大きくなる。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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