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ドイツ・反イスラム運動「ペギーダ」を直撃「我々が求めるのは日本と同じ難民政策だ」【パリ同時多発テロ】

木村正人在英国際ジャーナリスト

反イスラムとプーチン崇拝

[ドイツ・ドレスデン]ベルリンから高速列車で約2時間、ザクセン州の州都ドレスデンを訪れた。ドレスデンでは昨年10月から毎週月曜日の夜、「西洋のイスラム化に反対する欧州愛国主義者」(PEGIDA、ペギーダ)の集会が開かれている。

23日午後6時すぎ、クリスマスソングが流れる中、エルベ川沿いにあるテアータープラッツ(広場)に市民が集まり始めた。摂氏零度を下回る寒さだ。にもかかわらず、みるみる人の輪が広がり、その数は5千~6千人に膨らんだ。ドイツやロシアの国旗のほか、赤字に黒と金色で十字を描いたペギーダの旗も掲げられた。

ドレスデンで開かれたペギーダの集会(筆者撮影)
ドレスデンで開かれたペギーダの集会(筆者撮影)

年配の夫婦が目立つが、若者も少なくない。パリ同時多発テロから3日後に行われた先週の集会には約1万人が集まった。今年1月、仏風刺週刊紙シャルリエブド襲撃事件の直後に2万5千人が集まったのに比べると控えめだが、ドイツとロシアの国旗を合成した旗(上の写真中央)が掲げられているのには驚いた。

パリだけでなく、ロシア旅客機の乗員乗客224人も過激派組織「イスラム国(IS)」の爆破テロの犠牲になった。しかし、これはロシア人犠牲者への弔意ではない。プーチン露大統領への崇拝なのだ。

ドイツ北部クリックビュル村からやって来たヴェルナー・シュバイツァー村長は「ドレスデンで起きていることが心配で妻とやって来ました。ここは旧東ドイツなので、ロシアとの関係強化を求める人がいるのでしょうか」と表情を曇らせた。

ペギーダの支持者の中には「メルケル独首相はシベリア送りにして、プーチン大統領をベルリンに迎え入れよう」「プーチン大統領、我々を助けてください」と主張する者もいる。第二次大戦後、旧ソ連に支配されたドレスデンには1万5千人のロシア系住民が暮らしている。

ペギーダ創設者ルッツ・バックマン氏(42)はプーチン大統領のプリント入りTシャツを着て演説をするなど、プーチン崇拝者として知られている。

「ペギーダは過激な民族主義者のプラットフォーム」

今年1月以降、ドレスデンに到達したシリアやアフガニスタンの難民は2800人。前出のシュバイツァー村長は「私の村では2千人を受け入れますが、4週間でコンテナを使った簡易住宅を作りました。衣服や靴などを支給し、ドイツ語を教える体制も整えました。ドレスデンの負担はそれほど重くないはずです」と語る。

ペギーダの運動は少し停滞しているものの、無視できないほど大きくなった。左派から反イスラム、反難民の排外主義に転向する例も少なくないとシュバイツァー村長は言う。

ペギーダの集会(同)
ペギーダの集会(同)

ドレスデンに引っ越してきて1カ月半の大学生ダーヴィトさん(21)はペギーダの支持者ではないが、集会の様子を見にやって来た。「ペギーダのごく一部は過激な民族主義者です。最初はそうではなかったのですが、今ではペギーダは過激な民族主義者のプラットフォームになっています」

今年中にドイツにやってくる難民は150万人に達するという新聞報道もある。ダーヴィトさんによると、ペギーダの集会に集まってくる大半の市民は社会主義から資本主義という大きな変化を経験しただけに、あまりに急激に大量の難民が押し寄せてくる新たな変化に戸惑い、不安を抱いているという。

「経済難民を含め、もっと多くの難民がやって来ると、社会的対立が深刻になります。難民を歓迎するメルケル首相の政策では良い未来は期待できません。ムスリムが急激に増えると問題が大きくなります」と養護学校教員のザルフ・リヒターさん(50)は肩をすくめた。

ドレスデン在住のリヒャルトさん(26)とアニカさん(20)は「あまりに短い間に、あまりにも多い難民がやって来ました。冬になったのに、まだテントで暮らしている難民もいます。ドイツはすべての難民を受け入れるリソースを持っているわけではありません。未来が心配です」という。

ドレスデンのムスリム人口は1%

2005年時点で新生児の9.1%は両親がムスリムだったが、ドレスデンのムスリム人口は全体1%とされる。欧州の難民危機による急激な変化がドレスデンの一部住民の拒絶反応を引き起こした。

しかし反イスラムの空気はドイツ全体にも広がっている。今年1月の世論調査で、8分の1が「もし自分の町でペギーダの行進があれば参加する」と回答し、29%が「ペギーダの行進は正当化される」と答えた。難民センターを標的にした犯罪は今年10月末までで576件。昨年1年間の198件の3倍近くに達している。

テアータープラッツのすぐそばには観光名所のツヴィンガー宮殿がある。ドレスデンは第二次大戦の爆撃で市内の中心部は灰燼に帰したが、2005年には聖母教会が再建されるなど、観光都市として旅行客の人気を集める。

しかし毎週月曜日の夜にペギーダが集会を開くようになってから、米マイクロソフトが1600人の参加を見込んでいたイベントをキャンセルするなど、今年1~8月の宿泊客は前年同期比で2.6%も減っている。

メルケル首相の退陣求めるペギーダ創設者

ペギーダの創設者バックマン氏(同)
ペギーダの創設者バックマン氏(同)

ペギーダの集会は1時間ほどで終了した。創設者のバックマン氏を直撃した。バックマン氏はこれまでヒトラーの風貌をまねたり、難民についてフェイスブックに「ゴミ」「卑劣漢」「愚かな雌牛」と書き込んだりして問題を引き起こしてきた。起訴や有罪歴もある人物だ。

バックマン氏は「難民、学校などすべての政策が間違っている。これ以上悪くできないほど悪い政策をとっている。あまりに多くのことが間違っているので、通りに出て政府に反対するよう呼びかけた。メルケル首相の退陣を求める」と語気を強めた。

パリ同時多発テロについても尋ねてみた。バックマン氏は答える。

「非常に恐ろしいことだ。欧州全体を危険が覆っている。経済難民を含め、もっともっと多くの難民を受け入れて、路上で生活させるのが正しいとは言えない」

「彼らの国で暮らせるように支援すべきなのだ。日本は難民を受け入れていないが、彼らの国々で必要とされる支援をしている。私たちが求めているのはそれと同じことだ」

日本は難民を受け入れていないというのは正しくはないが、日本の難民支援協会によると、日本で難民認定を得たシリア人は3人だけだ。

反ペギーダの集会。数はペギーダに比べ少なかった(同)
反ペギーダの集会。数はペギーダに比べ少なかった(同)

同じ時刻に隣接した場所で反ペギーダ集会が開かれていた。フェイスブックでの呼びかけに応じた大学生アントンさん(21)はこう語る。

「難民はテロを持ち込むので、難民を受け入れるべきではないという主張を放っておくことはできません。ペギーダの主張は理解できません。愚かだと思います。しかし我々よりペギーダの集会の方が大規模です。もっと反ペギーダ集会を大きくする必要があります」

ペギーダと反ペギーダ(右側)を分断する警官隊
ペギーダと反ペギーダ(右側)を分断する警官隊

ペギーダと反ペギーダの間を警官隊と警察車両が分断していた。難民の流入を防ぐため有刺鉄線で新たな「壁」を作り始めた今の欧州を映し出すように、ドレスデンも分断されていた。

出典:グーグルマイマップで筆者作成
出典:グーグルマイマップで筆者作成

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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