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2016年大予測 アベノミスクは失敗する?

木村正人在英国際ジャーナリスト
GDP600兆円を目標に掲げる安倍首相(写真:ロイター/アフロ)

皆さん、明けましておめでとうございます。2015年の欧州は仏風刺週刊紙シャルリエブド襲撃、131人が死亡したパリ同時多発テロ、難民危機、急進左派政権の誕生によるギリシャ債務危機の再燃など大きなニュースが相次ぎました。第二次大戦、冷戦、ベルリンの壁崩壊を経て四半世紀、世界は激動の時代に突入しています。パリの国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で2020年以降の地球温暖化対策の枠組み「パリ協定」が採択されるなど国際協調の動きもありましたが、中国の海洋進出、領土的野心を露わにするロシアのプーチン大統領の様子を見ていると新年もとても楽観できません。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)の予想を見ながら、2016年を占ってみましょう。

新年、アベノミクスは失敗する?

[FT]ノー。アベノミクスの評価は分かれるが、日本経済を悪化させるより良くしている。しかし2017年に予定される消費税税率の再引き上げは経済を収縮させる恐れがある。

[筆者]日銀のバランスシートをここまで広げても潜在成長率がまったく上昇しないのは心配です。が、構造改革よりインフレ誘導型のアベノミクスの方が政治の安定性は格段に増します。構造改革を進めると、国民の不満が膨らみギリシャやスペインのように急進左派の台頭を招きます。アベノミクスの隠れた効用は、安倍1強に象徴される「強い政府」を作り出したことでしょう。安倍晋三首相は憲法改正に突き進まず、経済の再建を優先させ、成功の暁にご褒美として憲法改正に取り組むのが理想です。いかに国民の消費と企業の投資を増やし、政府債務をコントロールしていくかが引き続き、アベノミクスの大きな課題になります。

米民主党のヒラリー・クリントン前国務長官は米大統領選で勝利するでしょうか?

[FT]イエス。共和党の候補者が右寄り過ぎるので、中道と左派に支えられたヒラリーが勝つ。

[筆者]ヒラリーに勝ってもらわないと、困りますよね。共和党指名争いの台風の目、不動産王ドナルド・トランプ氏の発言を見ていると、先進国はどこも右傾化していることが分かります。中国などの新興国に追い上げられ、先進国は余裕を失っています。格差が広がり、極端な意見がもてはやされるようになっています。経験豊富で手堅いヒラリーが米国と世界に安定感をもたらしてくれることを願っています。

中国は劇的に人民元を切り下げるか?

[FT]イエス。現在の1ドル=6.49人民元から7人民元ぐらいまで切り下げられる可能性が強い。中国経済は少なくとも2度の利下げが必要となる。中国からの資本流出が続く。

[筆者]中国経済が減速しても、成長がまだ続くのは間違いないでしょう。

英国は2016年に実施されるとみられる国民投票で欧州連合(EU)を離脱する?

[FT]ノー。最後は英国民の常識が勝利する。

[筆者]もし英国民が賭け屋で残留派のジョン・メージャー元首相か、離脱派の英国独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ党首に全財産を投じるとしたら、やはりメージャーでしょう、というのがFTのコラムニスト、フィリップ・スティーブンズ氏の回答。英国がEUを離脱したら、筆者もロンドンからの引っ越しを考えないといけません。国民投票の行方は、欧州経済がどこまで回復するか、投票前に大規模テロが起きるか否かにも大きく左右されます。フィンガークロス、英国民が残留に投票することを祈っています。

ドイツのアンゲラ・メルケル首相は2016年の最後まで首相か?

[FT]ノー。増え続ける難民がメルケル政権を不安定化させ、終止符を打つ。

[筆者]イエス。ドイツに2015年にたどり着いた難民は100万人を超えました。家の軒先まで難民があふれているという表現も誇張ではなくなっています。しかし、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の暗い過去を持つドイツはEUの協力を促し、難民受け入れで人道支援の歴史をつくろうという強い意思を見せました。それができる政治指導者はドイツにも欧州にもメルケル以外に見当たりません。きっとヒラリーも応援してくれるはずです。もしドイツがメルケルを政権の座から追い落としたら、西洋とイスラムの溝は深まり、未来が暗転する可能性があります。

ディーゼル・エンジン車の売り上げが欧州で落ちる?

[FT]イエス。ディーゼル・エンジン車を主力とする独フォルクスワーゲンの排ガス不正問題で、VWの売り上げは20%以上落ちた。

[筆者]ロンドンで暮らしていて外出すると鼻の穴が真っ黒になるのが以前から非常に気になっていました。犯人はディーゼル・エンジン車だったのです。できもしないことに成功したとウソをついてディーゼル・エンジン車を売っていたVW社の行為は明らかな詐欺です。地球温暖化対策でディーゼル・エンジン車に軸足を置いていたEUの戦略も大幅な見直しを迫られています。ガソリン車が主力の日本勢には追い風です。

ブレント原油が2016年末には50ドル以上になっている?

[FT]イエス。持続可能なレベルに戻る。

[筆者]原油価格が戻ってくれば、産油国の財政に少し余裕が出てくるでしょう。50ドル以上になれば、プーチン大統領が再び強気に出てくる恐れがあります。

さて、あなたの大予測は?

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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