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北朝鮮の「水爆」はニセ情報、ブースト型核分裂兵器か 国際軍事情報会社が分析

木村正人在英国際ジャーナリスト
1952年に行われた初の水爆実験(写真:ロイター/アフロ)

北朝鮮が6日、「初の水爆実験を実施した」と発表したことについて、国際軍事情報会社IHSジェーンのカール・デューイ氏は「水爆というのは北朝鮮のニセ情報で、ブースト型核分裂兵器の可能性が強い」との見方を示した。

水爆は熱核(核融合)反応によって放出されるエネルギーを使う爆弾で、原爆はウランやプルトニウムなどの核分裂に伴って放出されるエネルギーを用いた爆弾。

ブースト型核分裂兵器は核融合物質として重水素と三重水素を用い、小規模な核融合反応を起こすことで放出された中性子によって効率的な核分裂を起こす原爆。核弾頭を小型化することができ、水爆製造のための前段階とされる。

「実験」が本当なら、4回目の核実験に当たり、金正恩第1書記の体制になってからは2013年2月に続き2回目。北東部咸鏡北道豊渓里の実験場で行ったとみられている。

デューイ氏によると、水爆の熱核爆発というより、金正恩体制によるニセ情報である可能性が強い。水爆には重水素化リチウムが使われるが、北朝鮮がそれを製造する設備を持っているかどうかは不明だ。それよりむしろ、ブースト型核分裂兵器と知られる改良型兵器の実験が行われたとみられるという。

第二次大戦で、米国が広島に投下した「リトルボーイ」や長崎の「ファットマン」は核分裂性物質のそれぞれ1.4%、最大17%しか核分裂を起こさなかった。核融合物質として重水素や三重水素を使って小規模な核融合反応を起こせば、放出された中性子によって核分裂反応の効率性を増すことができる。

こうした構造を利用したのがブースト型核分裂兵器で、核弾頭の小型化が可能になる。北朝鮮が発表した「水爆」ではなく、核分裂兵器やブースト型核分裂兵器であったとしてもすでに実戦配備されているなら、深刻な脅威になることに変わりはない。

北朝鮮は昨年5月、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の水中発射実験に初めて成功。昨年12月、日本海でSLBMの発射実験を行った(韓国政府関係者の話)と報じられている。

IHSカントリー・リスクのアリソン・エバンズ氏はしかし、「北朝鮮はまだ核弾頭の十分な小型化に成功していない」と分析、SLBMに搭載可能な小型核弾頭の保有には至っていないとみる。「水爆」保有を装うことで外交・安全保障政策で強気に出る狙いが金正恩第1書記にあったとしても、逆に中国や米国の経済制裁を招き、自分で自分の首を絞めるだけとエバンズ氏は指摘している。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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