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民主党と維新の党が不健全野党の「民進党」を結成した これでは旧社会党に逆戻りだ

木村正人在英国際ジャーナリスト
民主党の岡田克也代表(写真:アフロ)

「党名より政策議論を」

民主党と維新の党は合流した後の新しい党名を「民進党」にすることで合意しました。民主党は「立憲民主党」、維新の党が「民進党」を提示し、12と13の両日それぞれの党で世論調査を実施した結果、いずれも「民進党」が「立憲民主党」を上回ったため、「民進党」にすることで合意したそうです。

衆参両院で151人の勢力になります。

自民党の菅義偉官房長官は記者会見で「党名よりも政策に関する議論というものが本来はあってしかるべきかなと思う」と述べました。与党だけでなく、野党からも厳しい見方が出ています。「民主党政権時代に対する厳しい国民の思いが続いている」(社民党の吉田忠智党首)ので、「民主党」の看板を付け替えた形ですが、それで政党の中身が変わるとはとても思えません。

自民党と旧社会党の1955年体制が崩壊した90年代以降、新党が次々と結成されては政党の離散集合が繰り返されてきました。それ以前は総選挙の選挙制度が中選挙区で、それぞれの定数に合わせるような形で主要政党や自民党内の派閥数が絞られてきました。中選挙区は定数によって一定の絞りをかける比例代表制と言っても良いでしょう。

日本民主党と自由党が自民党を結成(55年体制)した後の58年総選挙で自民党と旧社会党の議席占有率は97%に達しました。しかし、旧社会党が非現実的な政策に固執したため、自民党の1党優位政党制が続いて緊張感を失い、利益誘導型の腐敗が蔓延しました。戦後、自民党の政策は「自由主義」と「経済成長」でしたが、冷戦終結で共産主義という対立軸を失い、日本は平和の利益を独占できなくなってしまいました。

二大政党の流れに終止符を打った民主党

そこで二大政党による政権交代を実現させ、政治に緊張感を持たせようと96年の総選挙から小選挙区比例代表並立制が導入されました。選挙制度の改革で民主党政権が誕生した2009年総選挙で上位2党の議席占有率は89%にまで回復しました。

しかし民主党政権下、政官の関係は軋み、日米同盟は漂流、東日本大震災の福島第1原発事故では混乱を極め、民主党は有権者の信頼を完全に失ってしまいました。二大政党による政権交代の気運も一気にしぼみ、日本は再び「自公連立」という事実上の一党優位政党制に逆戻りしてしまったのです。

衆参両院とも小政党に有利な比例代表が導入されているため、政党が乱立し、離散集合、野合が後を絶ちません。しかし現在の小選挙区比例代表並立制のもとで一時は自民党と民主党の二大政党に集約される流れができました。安倍1強下で進む野党液状化の原因をすべて選挙制度に押し付けるわけにはいきません。

派閥や徒党と政党の違いについて、「保守主義の父」英政治思想家エドモンド・バークは「政党とは、全員が同意しているある特定の原理に基づき、共同の努力によって国民的利益を推進するために結集した人々の集まりである」と定義しています。自分たちが信じる政策のもとに集まった志と資質を備えた人々が政党をつくり、その政策を実現するために政権を目指す。それが政党政治の原点です。

「憲法違反の部分は白紙撤回」

民主党と維新の党は基本的政策合意で、「現実的な外交安全保障」について「安全保障法制については、憲法違反など問題のある部分をすべて白紙化する」とし、「立憲主義の確立」では「幅広い国民参加により、真の立憲主義を確立する」とうたっています。

「2030年代の原発ゼロ」を実現するため「原発再稼働については、国の責任を明確化し、責任ある避難計画が策定されることと、核廃棄物の最終処分場選定プロセスが開始されることを前提とする」とし、「地域主権改革」では「基礎自治体の強化を図りつつ、道州制への移行を目指す」と宣言しています。

民主党の岡田克也代表は、安全保障法制・憲法・原発を対立軸に安倍晋三首相と戦う姿勢ですが、あれだけ苦労して成立させた安全保障法制を白紙撤回されてはかないません。北朝鮮の核・ミサイル開発、中国の海洋進出を目の当たりにして、政権を狙う最大野党の党首が正気でこんなことを言っているとはとても信じられません。

「反安倍」では政権は取れない

反対のための反対を繰り返す野党は旧社会党と同じで、政権与党にとってまったく怖くありません。真剣に政権を狙ってこないからです。本気で政権交代を狙ってくる野党があって初めて民主主義は健全に機能します。一党優位政党制のワナから抜け出すには、「私たちこそが今の政権に代わって善政を施す」という強い信念と現実的な政策を考える知力が野党側に求められます。

自民党の対立軸は「社会党」から「民主党」に変わり、今度は「民進党」に看板が付け替えられました。しかし「反安倍」が主要政策なら政権奪取は夢のまた夢で、安倍1強の自民党に代わる受け皿にはなりません。そればかりか自公連立政権は緊張感を失い、日本の民主主義が機能低下するリスクが高まっています。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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