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卵2個で少女買春 PKOの性的虐待を放置し、米上院で「無能」呼ばわりされた国連の潘事務総長

木村正人在英国際ジャーナリスト
マリに展開する国連PKO部隊(写真:ロイター/アフロ)

「ムカついてしょうがない」米上院外交委員長

米上院外交委員会の公聴会で13日、ボブ・コーカー委員長(共和党)が、国連平和維持活動(PKO)部隊による少女売春や性的暴力、レイプを止められない国連の潘基文事務総長を「無能だ」と批判し、国連への拠出金を見直すよう呼びかけました。

「もし国連PKO部隊がわが町に派遣されると知ったら即座に、仕事を中断して次の飛行機に乗って帰宅し、妻や家族を守るだろう。(これまでに性的虐待が報告されている)特定の国がPKO部隊の中に含まれていたら、なおさらだ」

「わが町のことを想像してもそんな思いに駆られるのに、孤立している地域の少年、少女がそんな目に直面している。そんな国連の活動に私たちの税金が使われているのに、事態はいっこうに改善しない。本当にムカついてしょうがない」。コーカー委員長はまさに吐き捨てるように言いました。

国連の潘事務総長(今年2月、ロンドンで筆者撮影)
国連の潘事務総長(今年2月、ロンドンで筆者撮影)

潘事務総長は2007年に就任してから、PKO部隊の派遣国に気遣って、ほとんど何もしてきませんでした。コーカー委員長は「10年近く経っているのに事態は改善していない。事務総長はいったい何をしているのか。同じことが何度も何度も繰り返される。こんな国連の無能な指導者を放置したままで良いのか。そんな国連に我々は金を出し続けている」と怒りをぶちまけました。

止まらないPKOの性的虐待

国連PKOによる少女買春、性的虐待が報告され、注目されたのは1996年8月です。調査が行われた12カ国中6カ国で、国連PKOが到着した後に子供たちが買春の被害者になるケースが急増していることが指摘されました。

子供の権利国際ネットワーク(CRIN)などによると、2004年12月にはアフリカ中部のブルンジで国連PKOの兵士6人が子供たちに対する性的虐待容疑で停職になりました。ブルンジは約10年に及ぶ内戦が終了し、7カ月前にPKOが派遣されたばかりでした。

同年11月には国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの責任者が「国連が抱えている問題は不幸にもPKO部隊が他の武装勢力と同じことをしているように見受けられることです。守護者にも見張りがいります」と指摘しています。

05年1月には、国連PKO部隊1万人が派遣されているコンゴ民主共和国で13歳の少女がPKO兵士に性的虐待を受けていたとして調査が行われました。04~06年にかけ、140件の性的虐待が行われたいたことが明るみに出ました。09年にはPKO兵士が関与した10件の性的虐待やレイプが確認され、うち4人のモロッコ人兵士が有罪になりました。

10年にはコートジボワールで食料を得る見返りに8人の少女がベナン人PKO兵士と性行為を行っていました。09年にも性的虐待やレイプでモロッコ人PKO兵士が有罪判決を受けています。

11年にはハイチでウルグアイ人PKO兵士4人が18歳の少年をレイプし、録画した映像を投稿していました。13年にはマリで少なくとも4人のPKO兵士に女性がレイプされています。

14年には中央アフリカで3人の少女が縛られ、フランス軍の司令官によって犬との性交を強いられるという信じられないような容疑事案も報告されています。昨年6月にはブルキナファソで2人のフランス人PKO兵士が子供2人に性的虐待を加えたとして停職になりました。中央アフリカでもフランス人PKO兵士による性的虐待が明らかになったばかりでした。

今年2月の国連報告書によると、国連PKO部隊による少女買春や性的虐待、レイプの件数は以下の通りです。

2011年75件

2013年66件

2014年52件

2015年69件(22件は未成年者への性的虐待、15件は被害者が妊娠)

1回1~3ドルか卵2個

イゾベル・コールマン国連PKO米国特使は上院外交委員会の公聴会でこう指摘しています。

「性的な搾取と虐待は1回につき1~3ドルの対価や、兵士への割り当ての一部である卵2個と引き換えに行われています。数人の少女は買春を装ったレイプについて語りました。実際にはレイプした後、金を渡して合意の上で性行為を持ったように見せかけているのです。実はこれは05年の国連報告書にある記述ですが、10年以上経っても何も変わりません。国連の指導者たちがゼロトレランス(非寛容)政策を主張するようになってから数年が経過するのにまだ同じようなことが続いているのです」

昨年8月、潘事務総長は、PKO兵士が少年と父親を殺害し、少女に暴行した疑いが浮上した中央アフリカのPKOトップを引責辞任させ、世界に展開するPKOトップや軍司令官らとテレビ会議を開いて規律の徹底を指示しました。ようやく国連総会でも、少女売春や性的虐待、レイプに関与したPKO部隊の派遣国の国名を公表することで合意しました。

日本の過去にこだわる国連

国連総会での合意は米国の後押しもありましたが、潘事務総長のリーダーシップはあまりに弱く、遅すぎました。その国連で旧日本軍の慰安婦問題は何度も何度もやり玉に挙げられ、潘事務総長は北京で行われた抗日戦争勝利記念行事にも出席しました。旧日本軍慰安婦制度の抱えていた問題は時代と場所が変わっても繰り返されています。潘事務総長は日本の歴史より、国連が抱えている現在と未来の問題にもっと注力すべきでした。

2015年、国連予算(●は安全保障理事会の常任理事国)への拠出割合は次の通りです。

米国22%●

日本10.8%

ドイツ7.1%

フランス5.6%●

英国5.2%●

中国5.1%●

ロシア2.4%●

韓国2%

日本の国連での発言力はとても拠出金に見合ったものとは言えません。拠出金に合わせて発言力を強めていくのか、発言力に合わせて拠出金を減らしていくのか、今からでも遅くないから方針をはっきりさせる必要があるでしょう。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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