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熊本地震「賢い」支援をするために 善意を届ける前に考えてほしいこと

木村正人在英国際ジャーナリスト
東日本大震災 支援物資 宮城県大島(写真:ロイター/アフロ)

14日から熊本県などで続いている地震で、死者は44人、重軽傷者は1千人以上にのぼっています。震度1以上の地震は580回を超えました。NHKの集計では熊本県を中心に12万5千人余りが避難しています。熊本市の集積所には、全国各地から水や食料などの救援物資が届き、市の職員、陸上自衛隊員、ボランティアの人たちが対応に追われているとのことです。

熊本市内の避難所では食料や水が不足していますが、17日に大量の救援物資が一度に届いたため、速やかに避難所に届けることができなくなったそうです。物資を振り分ける人手が不足しているうえ、どの避難所で何が必要とされているかをリアルタイムで把握するのが難しいからです。

大規模な災害が発生すると、善意から大量の救援物資が被災地に届けられますが、無用の混乱を現場で引き起こすことがあります。

国連開発計画(UNDP)、セーブ・ザ・チルドレンなどを通じ中東・北アフリカで子供の支援活動に携わってきた田邑恵子さんは被災地に善意の救援物資を送る前に「何が最適なのか」を考えてみることを呼びかけています。支援活動のプロがアドバイスする「賢い」支援とは――。

[田邑恵子]今回はさすがに「送らないように」という呼びかけが一部のソーシャルメディアにてなされていますが、「助けたい」という気持ちが一番効果的に発揮されるように、義援品(救援物資)を送る前に考えて頂きたいことをお話したいと思います。

被災者に行き渡らなかった救援物資

東日本大震災では、報道された一部の避難所に大量の物資、生もの(おにぎり、果物など)が集中し、その一方、物資配給を受けない避難所あるいは自宅退避を続けている方々には行き渡らなかったことが問題になりました。

これは、あまりにも被害の規模が甚大かつ情報網が寸断され、避難所間の調整機能が働かなかったことが原因です。直接、避難所あてに物資が送られたり、届けられたりしました。

現在、これら過去の苦い経験から、避難所間のニーズ情報を共有し、必要なところに、必要な物資が、適切な優先順位にて配布されるような調整機能が、現地の自治体、国際NGOなどの間で模索されています。各避難所に収容されている人数の把握、備蓄、物資の過不足の洗い出しなどが進められています。

一見、遠回りで、効率が悪く見えるかもしれません。ですが、調整システムを経ないで配布された品々はいずれ廃棄されたり、使われることなくしまわれてしまったりする可能性が高いのです。

古着は受け付けない国際NGO

海外での緊急支援では国際NGO(非政府組織)は一般的に古着などの義援品の受付はしていません。それは、素材、材質、サイズなどにばらつきが多く、必要とされているところに配布する調整だけで、不必要な時間とスタッフが浪費されてしまうからです。

義援品には、タイミングを逃すなどのミスマッチのリスクもつきまといます。また、大量に送付された義援品(衣料品など)が物流システムへの負担となり、優先されるべき品物(食料や医薬品)などの到着を送らせてしまうリスクも伴います。

その一方、ある地域においては義援品の受け付けを始めましたという報道がありましたが、それらは品物リストを列挙するだけであり、必要とされるスペックがあることは報道されていません。

例えば「下着」は下着としか説明されておらず、スペックに関する情報は報道されません(新品のみ、綿100%のものだけか、化繊混合でもいいのか、サイズは何サイズから何サイズまでが必要なのか、男性用、女性用、子供用、おむつをしている高齢者用などの情報)。

緊急支援において物資の購入をする場合、各団体では規格を合わせ、どの団体も同じ内容の物資を配布するように調整を行っています(素材や家族の人数に応じた量など)。

これは「あそこの方が、中身がいい」という不公平感を呼ばないためです。厳密な基準を設け、それに合致するもののみを受け入れることもあります。

カップラーメンはおススメしない

また、被災者の方がリクエストするものが、一番最適なチョイスではないこともあります。有名な例でいうと、カップラーメンでしょうか。寒い時に湯気のたつラーメンを食べると暖まるし、「ホッ」としますよね。

そのため、昔はカップラーメンを備蓄されていた方も多かったと思いますが、今は備蓄としておススメしない品物のひとつです。それはラーメンの容器が衝撃に弱いこと、1食分を作るのに必要な水とお湯を沸かすための燃料の消費量が多いからです。

災害発生時、初期の段階では給水車も整わず、水、燃料は大変貴重です。ラーメン1食分のために使われる水と燃料のロスが多いのです。

粉ミルクにはリスクも

これは海外の例ですが、聞き取り調査をすると保護者は「子どもに与える粉ミルクが欲しい」と訴えます。実はこれは、人道支援団体が一番避けて欲しいと思っているリクエストなのです。

衛生環境が悪く、安全な水が確保できず、哺乳瓶の消毒ができない時に粉ミルクを与えることは、実は赤ちゃんの命を危険にさらすことになります。

粉ミルクを配布するよりも、お母さん達の栄養状態を改善し、精神的なストレスを取り去り、マッサージ指導をするなどして、母乳が出続けるようにする方が、安全なのです。

どうやって哺乳瓶の消毒を停電中の避難所でするのか?ということを考える余裕のないお母さんがたまたまインタビューを受け、たまたまそれがニュースで流れ、そして、数多くの粉ミルクが配布されるというのは、海外の支援現場では、本来望ましい形ではありません。

お母さんに寄り添いながら、お母さんと赤ちゃんにとって何が必要か、大切か、何が危険かをきちんと説明した上で、最終的にはお母さん自身の主体的な判断と決断を尊重し、そのためにできる支援は何かを考えるようにした方がよいでしょう。

日本では、アレルギーが多いお子さんもいて、自治体が定める避難所の備蓄品目には、哺乳瓶、粉ミルク、アレルギー用粉ミルクが含まれているところが多いです。

ソーシャルメディアを見て即、行動することは控えよう

善意が現地への負担にならないようにするためには、「賢い」支援のあり方が必要とされています。「○○が△△で必要とされています」というソーシャルメディア上の書き込みを見て、即、行動することは控えましょう。

窓口、受け入れを行っている団体の公開している情報をきちんと調べ、製品の仕様(材質、サイズなど)、数などを確認してから送ることが求められます。

「困っている人のところに届けたい」という気持ちはとても重要です。でも、その善意が支援の妨げとならないためには、次のような点を調べ、検討した上で、最適な方法を選ぶことが支援したいと願う方にも求められています。

(1)自分が直接、避難所・知人に送るのが本当に効果的なのか

(2)周辺市町村にて購入・配布を行っている団体は存在するか(物品ではなく寄付にて団体をサポートする)

(3)被災された方が自分で選んで購入できる手段はないか(物流の回復は思うよりも早いもの。物資がないから直接送りたいというのは、事実ではないことの方が多い)

(おわり)

【熊本地震緊急エントリー】

報道とボランティアの皆さんも「心理的応急措置(PFA)」を忘れずに

非常用持ち出し袋には「心の栄養になるものを!」

なぜ日本の防災計画は「子供に優しくない」のか

「女性が安心できる避難所を!」

ボランティアに出かける前にできること

田邑恵子(たむら・けいこ)

北海道生まれ。北海道大学法学部、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス大学院卒。国際協力の仕事に従事。開発援助や復興支援の仕事に15年ほど従事し、日本のNPO事務局、国際協力機構(JICA)、国連開発計画(UNDP)、セーブ・ザ・チルドレンなどで勤務。現在はフリーランスとして活動している。中東・北アフリカ地域で過ごした年数が多い。

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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