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熊本地震 女性が安心できる避難所を!

木村正人在英国際ジャーナリスト
東日本震災から5カ月たった時点の避難所(写真:ロイター/アフロ)

今月14日から続いている熊本地震でこれまでに48人の死亡が確認され、2人の行方が分からなくなっています。避難者は約9万人にのぼっています。

・死者48人

・地震の影響で亡くなったとみられる人11人

・行方不明2人

・重傷214人、軽傷891人

・住宅被害は9千棟以上の恐れ

・11万人余に避難指示や勧告

・避難者約9万人

・断水2万2100世帯

・震度1以上の地震は799回

(NHK、22日午後まとめ)

英BBC放送では、熊本地震の被災地でパニックを起こさず避難生活を送る日本人の態度について「ストイシズム(克己禁欲主義)」という言葉を使って報じています。しかし我慢のし過ぎは禁物です。問題を見えなくしてしまう恐れがあるからです。

東日本大震災では、被災地で強盗や強姦などが多発しているという流言飛語が飛び交い、被災者の不安をあおる状況がみられました。このため警察がチラシやポスター、ホームページを通じて正確な犯罪情勢を発信して、対策に努めました。

警察の目から見た治安とは別に、被災地で女性の権利やプライバシーが完全に守られているかと言えば、生活環境が不安定になることで女性が置かれている立場はさらに弱いものになっているのではないでしょうか。

東日本大震災女性支援ネットワーク(2014年3月解散)が11年10月~12年12月にかけて行った「災害・復興時における女性と子供への暴力」に関する事例調査(82件)があります。

量的な調査ではないため、全体としてどれだけの女性が暴力の被害を受けていたかは分かりませんが、その背景の一端を知ることができます。

出典:事例調査データをもとに筆者作成
出典:事例調査データをもとに筆者作成
同
同

被災地では女性がさらに弱い立場に置かれていることが分かります。国連開発計画(UNDP)、セーブ・ザ・チルドレンなどを通じ中東・北アフリカで子供の支援活動に携わってきた田邑恵子さんは「女性が安心できる避難所を!」と提言しています。

「皆、大変なんだから、文句は言えない」

[田邑恵子]普段は当たり前だと思っていることが配慮されない状態となってしまうのが、避難所です。そして、避難所生活をしていると「皆、大変なんだから、文句は言えない」という雰囲気が生まれてしまうこともあります。

本来だったらしなくてもいい不快な思いや、危険な思いをしなくてもいいように、いくつかのアイデアをご紹介したいと思います。さて、ここで、ひとつ質問です。下の4つに共通していることは何でしょうか?

・フェリー

・電車

・カプセルホテル

・ホテル

答えが思い浮かびましたか?「旅でお世話になるもの?」。いいえ、違います。正解は「女性専用のスペース(フロア)がある」。当りましたか?

就寝を伴うフェリーやカプセルホテルでは、女性専用のスペースがあると安心して眠ることができますよね。カプセルホテルは、そもそも、男女別しか存在しないのではと思います。

ビジネスホテルでも、女性専用フロアを設けているホテルが多いですね。スタッフの客室フロアへの立ち入りが極めて少なく、目が行き届かないビジネスホテルでは、特に安心に感じます。ところが、避難所ではどうでしょうか?

最近は、徐々に授乳室などを設けている避難所も多くなってきましたが、女性だけで眠ることのできるスペースを設けている避難所は極めてまれでしょう。

避難所では、通常、家族単位で固まって居場所を作り、そこでご飯も食べ、眠りにつきます。家族でいる方が安心するという方もいるでしょうし、高齢者の親についていなくてはならないという人もいるでしょう。

それでも、避難所内のスペースをやりくりし、昼間は家族と一緒に過ごし、希望する人は、夜だけでもいいので「女性専用スペース」で眠ることができるようにすると安心です。夜間、そこに近づく男性は目立ちますから、性暴力の危険を抑制することができます。

「女性専用スペース」があれば、着替え、授乳、下着の乾燥にも活用することができます。また、生理用品、下着などの置き場としても使えます。

子供さんがいる家族、高齢者を抱える家族が集まるというように区画割りにすることを検討してもいいでしょう。複数の家族で協力し合って、気兼ねを少なくしたり、交代で自宅に戻ったり、避難所での仕事をすることができます。

性暴力の被害にあわないために

自然災害は性暴力のリスクを著しく増加させます。残念なことに、急ごしらえで作られた避難所には、数々の危険な場所ができてしまいます。男女別に分かれていないトイレやシャワー、物資の置いてある部屋、階段の下の暗がり、物置、屋外で寝ている校庭など。

暗がりができないように照明を設置できると良いのですが、停電が頻発する可能性もあります。防犯ブザーがない場合、できるだけ一人で行動することを避け、懐中電灯や笛を携帯するようにしましょう。特に家の片付けなどでは、どこからでも侵入できる状態となっていることもあるため、特別に注意が必要です。

そして、性暴力は女性だけの問題ではありません。子供や男性にも危険はあります。

性暴力の被害にあってしまったら

望まない妊娠を避けるためには72~120時間内に、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染することを防ぐためには72時間以内に処置を受ける必要があります。大変なショックの中で混乱していたとしても、すぐに処置を受ける事が必要です。

難民キャンプなどには、そのための処置キットが常備されていますが、日本の避難所にはない可能性が高いでしょう。性暴力被害者への対応は、日本であれば医療関係者が一番知識を持っている可能性が高いです。まずは、医療関係者に助けを求めるようにしましょう。

また、性暴力の連鎖を断ち切るためにも、被害を受けた方がさらなる嫌がらせを受けないためにも、避難所を運営する人たちが、正しく対応することが必要です。性暴力は許さないという断固とした姿勢を表明し、それを実施することが求められます(巡回の実施、被害報告した人を守る仕組みなど)

生理用品の置き場所と捨てる場所

生理用品は配布だけではなく、それがきちんと処理できる環境が整っていることが大切です。トイレ個室内に捨てる場所がなくてはなりません。男性から手渡されるのに抵抗がある人のために、トイレに備え付けたり、女性専用スペースに置いたりするのでもいいですね。

また、個室内にウェットティッシュ/デリケートゾーン用ウェットティッシュを常備しておき、汚れた手指を拭くことができると、さっぱりするし、人目を気にする心配が減るでしょう。

なぜか改善されないトイレの問題

自動的に便器のフタが上がる、水が流れる、音楽がなる、照明の色が変わるなど、日常生活では、あれだけハイテクかつ快適な、世界に誇る日本のトイレ。

それなのに、災害発生時のトイレ問題がこれほど長い間改善されていないのは、なぜなんだろうと不思議です。どの大災害でも、トイレ問題はベスト3にのぼるくらいの課題とされてきました。そして、トイレの不足/不衛生さは、エコノミークラス症候群などの様々な健康問題を引き起こしてきました。

水がなくても快適に使用できる「バイオトイレ」をご存知でしょうか。微生物が排泄物を分解してくれて、汲み出しの必要もなく、悪臭も発生しません。

「ホント?」と思うかもしれませんが、本当です!

私は、おがくずを撒くタイプのバイオトイレを何度も使用したことがありますが、臭いも全然なく、快適でした。使い方も簡単です。内装も木目で統一され、とてもおしゃれで、にわかにはそれが仮設トイレであるとは信じ難いくらいでした。

こういったバイオトイレを製造している会社は複数あります。かつ、それが自走式(車と一体化している)であり、必要なところに簡単に移動もすることもできます。台所のコンポストを転用したユニークなバイオトイレを開発している会社もあります。

しかし、全然普及していません。東日本大震災でも、ほんの一部の避難所にしか設置されませんでした。使用者の感想は「汲み取り式の仮設トイレよりも臭くない!」でした。

自走式バイオトイレを避難所に設置する、あるいは、地域の指定避難所には、最初からバイオトイレを設置しておき、人々が普段から使用することに抵抗がなく、正しい使い方を知っているのが望ましいかもしれません。

「声なき声」を届けるには避難所運営に参加するしかない

避難所では、様々な担当グループが結成されます。食料配布、清掃、物資配布、ボランティアの受け入れ、安全のための見回りなどです。こういった避難所運営は、被災された方の自治組織が支援に入った市町村職員などと共同で活動するのが一番望ましいです。

そして、避難所で女性が安心して過ごせるようにするためには、この運営組織に女性が参加することが求められます。乳幼児のお母さん、学齢期の子供を持つお母さん、介護が必要な親と避難されている女性など、それぞれ、気づく点は異なります。

こういった方々がバランス良く、適切な人数で避難所運営に参加することで、隠れたニーズ、語られないニーズが初めて議論の場にのぼります。

また、同じ状況にある方と相談することで、思ってもみなかった解決策が見つかる可能性もあります。そのためにも、一人で参加するのではなく、複数の女性が参加することが望ましいです。

内閣府でも指針を出しています。残念なことに、この指針は、男女共同参画局のサイト内にあり、防災担当のサイトには掲載されていないため、なかなか今、避難所運営をしている人たちの目には留まりづらいでしょう。

少しでも女性が安心して過ごせるように。まずは「何に困っているか」を近くにいる方と話し合うことが最初の一歩になります。

(おわり)

【熊本地震緊急エントリー】

報道とボランティアの皆さんも「心理的応急措置(PFA)」を忘れずに

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「賢い」支援をするために 善意を届ける前に考えてほしいこと

なぜ日本の防災計画は「子供に優しくない」のか

ボランティアに出かける前にできること

田邑恵子(たむら・けいこ)

北海道生まれ。北海道大学法学部、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス大学院卒。国際協力の仕事に従事。開発援助や復興支援の仕事に15年ほど従事し、日本のNPO事務局、国際協力機構(JICA)、国連開発計画(UNDP)、セーブ・ザ・チルドレンなどで勤務。現在はフリーランスとして活動している。中東・北アフリカ地域で過ごした年数が多い。ブログ「シリアの食卓から」

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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