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熊本地震 ボランティアに出かける前にできること

木村正人在英国際ジャーナリスト
東日本大震災発生から1週間。おにぎりを作るボランティア(写真:ロイター/アフロ)

英大学ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで毎年恒例のジャーナリズム会議「ポリス・カンファレンス」が開かれたので参加してきました。今年のテーマは「ジャーナリズムとクライシス」で、大量の難民が欧州に押し寄せた難民危機にフォーカスが当てられました。

中でも強いショックを受けたのは「ジャーナリストとNGO(非政府組織)」というセッションです。私も計1カ月近くトルコやギリシャ、マケドニア、セルビア、クロアチア、ハンガリーで難民を追いかけましたが、現場で支援に当たるNGOの人たちの情熱とパワーに圧倒されました。

私は今年で55歳になりますが、「ジャーナリズムって本当にしんどいけれど、やりがいがあって、無限の可能性がある」と思っています。一昔前まではジャーナリストはいつも最前線にいて、状況や問題点を誰よりも把握していました。

でも、今はセーブ・ザ・チルドレンや国境なき医師団(MSF)のような国際NGOが長期的に最前線に展開し、報道より困難な仕事に取り組んでいます。広報の質も量もメディア顔負けの高さです。NGOのスタッフ1人ひとりの能力、柔軟で的確かつ迅速に対応できる組織力にも驚かされます。

「ジャーナリストとNGO」というセッションで、国営のオーストリア放送(ORF)の女性ラジオ・ジャーナリストが難民キャンプの取材で「NGOが同行取材に十分協力してくれない」「難民へのフリーアクセスを制限している」「それでは十分な寄付を集めることはできないのでは」と不平を述べました。

するとMSF英国の広報担当者は「ジャーナリストの要望を受け入れ、取材現場への送り迎えの車、通訳、広報担当者の随行などを用意していると大変な出費になる。スタッフも割かなければならない。現場ではいろいろやることがあって、メディアの相手ばかりしていられない」と一蹴しました。

ジャーナリストから転身した国連世界食糧計画(WFP)の担当者は「今やクライシスの現場で車、通訳やコーディネーターを用立てられるのは米国の主要メディアだけだ」と打ち明けました。会場からもNGO側に賛同する声が相次ぎ、「主要メディアは全盛期のパワーも信頼も失ったのだ」と改めて痛感させられました。

インターネットやソーシャルメディアの台頭で新聞の販売部数やTVの広告収入が激減しました。収入の伸びが期待できない中、取材費がカットされ、以前ほど人材、時間、金を取材に割くことができなくなりました。

そんな中で、熊本地震の取材で関西テレビ(大阪市)の中継車が熊本県菊陽町のガソリンスタンドで給油待ちの列に割り込んだ問題が起きました。何が問題かと言えば、自然災害の取材では現場の負担を増やさないよう水や食料、燃料の持ち込みはイロハのイのような気がします。

私も長年、新聞社にいましたが、危機取材の基本を学んだことがありません。とにかく「他社より早く」というのが主要メディアの論理なんだと思います。

国連開発計画(UNDP)、セーブ・ザ・チルドレンなどを通じ中東・北アフリカで子供の支援活動に携わってきた田邑恵子さんと知り合ったのは難民危機がきっかけでした。自費でトルコの難民キャンプを回り、シリア難民は顔や名前のある1人の人間なんだと訴えようと大手メディアを回ったところ、良い反応を得られなかったそうです。そこでインターネットでニュースを発信している私に連絡を取って来られたのです。

私自身、語学に堪能で専門知識も豊富な田邑さんから多くのことを学びました。今はインターネットやソーシャルメディアといった便利なツールがあり、田邑さんの情報発信をお手伝いできるのではないかと思いました。日本では政府・役所と、地域社会・学校・家庭・個人を包み込む市民社会がまだ十分には育っていません。お役所や警察情報を取ることに膨大なエネルギーを費やしてきたメディアにも大きな責任があります。

災害の報道に接し、何かを送りたい、現地にボランティアとして入ってお手伝いがしたいと思うことは大切なことです。田邑さんは被災地のボランティア活動に参加する前に十分な準備が必要だと言います。

被災地でのボランティア活動の前に〜必要とされる準備は、身支度だけではない

[田邑恵子]東日本被災地で活動したボランティアは、被災3県の災害ボランティアセンターで受け入れた人数が141万9千人(全国社会福祉協議会HP)、赤い羽根「災害ボランティア・NPO活動サポート基金」の助成を受けて活動した人数は約538万人。

これ以外に、直接、個人のツテで活動をしたボランティアも相当数いると考えられています。いずれにせよ、膨大な数です。では、すべてのボランティアが、事前に自主的に勉強をしたり、研修を受けたりして、辛い思いをされた被災地の方々に寄り添う準備ができていたでしょうか。

2011年の東日本大震災以前に災害ボランティア活動を経験した人も多いでしょう。でも、被災地の状況は東日本大震災と阪神・淡路大震災で大きく違いました。現地の方は、異なった悩み、苦しみを抱えておられたことが推定されます。

ボランティアバスに乗ってみて

東日本大震災後、私も 「ボランティアバス」に申し込み、ヘドロ出しや仮設住宅のお引っ越しのお手伝いなどを経験させていただきました。内陸部に所在する団体が主催するバスで、ほぼ満員、遠くは大阪や名古屋など40人くらいの方が参加されていました。

目的地には2時間くらいで到着しましたが、その道中で特に活動の心構えなどが説明されることはありませんでした。被災された方と直接お話する機会がありましたが、精神疾患を持っておられるご家族のケースでもあり、本来であれば、きちんとそれなりの訓練と研修を積んだ方が向き合わなければいけないような場面であったと思います。

東日本被災地での聞き取り調査時には、ボランティア受け入れに関しても、お話を伺いました。仮設住宅でのお茶会など、ご家族を亡くされた方、行方不明の方とボランティアが直接接する機会が数多くありました。

地域の方には気兼ねがあって打ち明けることのできない胸の内も、遠くから来た「よそ者」のボランティアには気兼ねなく吐き出すことができたという良い側面の事例もたくさん伺いました。その反面、派遣前研修を義務づけしている団体は極めて少なかったことも明らかになりました。

ご家族を失くした方に「こちらの仮設にはお一人でお住まいですか?」という質問を投げることすらも、辛い胸の思いをえぐるようなことにならないのだろうか、と心配が募りました。

ボランティアに出かける前に、今できること

ボランティアに参加する方に対して「食料、水の持ち込み、ゴミは持ち帰る、装備を万全に」という呼びかけを見ますが、本当に必要とされる準備は、身支度だけではありません。

それよりも、事前に適切な訓練を受け、派遣された時に不適切な対応をとったり、現地の方々に不快な思いをさせたり、知らず知らずのうちに、他の方々をリスクの高い状況に置いてしまう危険を避けるように、今、準備をしておくことが求められます。

ボランティアとして活動するにあたっての心構えのような研修、教材、啓発資料などは既に数多く存在します。また、地元のボランティア団体に所属することで、個人のボランティアを受け入れる地元団体の負担を軽減し、より調整・統制のとれた、効果的なボランティア活動が可能となります。

被災地の状態がまだ安定しない現在、私たちに今できることは――。

(1)地元の団体に登録する

子供の支援、障害者との活動、家の修繕、炊き出し、落語の出前など、様々な活動を展開する団体は、たくさん存在します。まずは、地元で興味関心のある活動、ご自分のスキルが活かせると思う団体を探し、登録をしましょう。

ボランティア・ネットワーク、ボランティアフリーペーパー、社会福祉協議会のホームページなどで探すことが可能です。また、そういったネットワークに繋がることで、 被災地にて活動をする機会に関する情報が入りやすくなります。

(2)防災ボランティアに関する最低限の知識をつける。

防災ボランティアのポータルサイト(内閣府)

「ボランティアで現地に行くことが最適なのか?」を判断するためにも、まずはこちらを。地元でできる活動についても紹介しています。

防災ボランティアの「お作法」(内閣府)

こちらは基礎中の基礎についてまとまって記述されます。ですが、これだけでは十分でありません。

(3)より詳細なガイドラインを読むことを強くおススメします。

「心のケア――阪神・淡路大震災から東北へ」(加藤寛・最相葉月著)

支援に入ろうと考えている人、必読の一冊。阪神・淡路大震災以来、16年間にわたり、多くの自然災害や人為災害において心の傷(トラウマ)の回復に尽くしてきた精神科医・加藤寛による著書。心ない支援のあり方がどれほど被災された方の負担になるかを説明してくれます。

(4)派遣前講習を受験する、教材を学習する

被災地に赴く前に、受講できる講習に参加しましょう。講習のスケジュールがあわない場合でも、多くの教材はホームページからダウンロードできます。自習するだけでも、大きな違いがあります。

災害時高齢者生活支援講習ハンドブック(日本赤十字社)

環境の変化への適応が難しいこともある高齢者が、避難所生活により体調が悪化したり、不安を抱いたりすることを防ぐ支援技術について説明されています。

子供のための心理的応急処置(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン)

被災された方や被災地で活動する方を対象に、甚大な心理ストレスを受けた子供たちは、年齢、個人によってどうストレスに向き合うのか、子供たちへの接し方、どう支援を行うかを説明しています。子供さんだけではなく、大人にも有効な情報がたくさんあります。

防災マニュアル〜障害当事者の方へ〜(東京都心身障害福祉センター)

「障害」についてよく知らない周囲の方々に、災害時に避難所等で過ごすに当たって、どのようなことに困るのか、過去の災害等を教訓に事例等も盛り込んであります。

対人支援職のためのセルフケア(兵庫こころのケアセンター)

被災地に入るということは、現地に入ったボランティアも非日常的な経験をします。それが、知らず知らずのうちにこころの負担となることも。支援する側のこころのケアについて学ぶことができます。

チャイルド・セーフガーディング(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン)

ソーシャルメディアに子供の写真を勝手に載せないなど、故意でなくても、子供の安心・安全を脅かしてしまう、あるいは子供の立場に十分配慮されないようなことを防ぐための行動基準があります。

ぜひ「女性が安心できる避難所を!」もお読みください。

特に女性の方がボランティアとして参加する場合に注意していただきたいことにも触れています。不快な思いや危険な思いを経験しなくていいように。

人道・緊急支援の国際基準トレーニング(基礎編)(国際協力NGOセンター)現地のニーズや意見を反映させる、人々を危害にさらさない、団体間で連携をとる、スタッフの安全を確保する等の視点を学ぶことができます。避難所に設置するべきトイレの数やシェルターの設営基準など、かなり詳細に記述されていますので、心得よりも上の知識が欲しい方向けです。

資料の一部はこちらよりダウンロードできます。

(5)疑似体験してみる

「人と防災未来センター」映像やシミュレーションから、阪神・淡路大震災の疑似体験ができます。市民ボランティアによる語り部さんより、当時のお話を聞くこともできます。またワークショップコーナーには、非常用持ち出し袋の中身、避難所での生活を想定したゲームなど、体験しながら学べるコーナーも充実しています。

(おわり)

【熊本地震緊急エントリー】

報道とボランティアの皆さんも「心理的応急措置(PFA)」を忘れずに

非常用持ち出し袋には「心の栄養になるものを!」

「賢い」支援をするために 善意を届ける前に考えてほしいこと

なぜ日本の防災計画は「子供に優しくない」のか

田邑恵子(たむら・けいこ)

北海道生まれ。北海道大学法学部、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス大学院卒。国際協力の仕事に従事。開発援助や復興支援の仕事に15年ほど従事し、日本のNPO事務局、国際協力機構(JICA)、国連開発計画(UNDP)、セーブ・ザ・チルドレンなどで勤務。現在はフリーランスとして活動している。中東・北アフリカ地域で過ごした年数が多い。ブログ「シリアの食卓から」

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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