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やっぱり紙の新聞創刊は無謀でしたというお話 英紙ニュー・デーがわずか9週間で廃刊

木村正人在英国際ジャーナリスト
英国の新聞(写真:Rex Features/アフロ)

今年2月末、英国で創刊されて話題を呼んだ新たな日刊紙「ニュー・デー」が販売不振から廃刊されることになりました。発行元のトリニティー・ミラー社の株はニュー・デー廃刊が発表されると皮肉にも6%以上も上昇しました。

ニュー・デー
ニュー・デー

トリニティー・ミラー社は英大衆紙デーリー・ミラーや150紙以上の地方紙を発行しています。ニュー・デーが創刊された9週間前、最高責任者サイモン・フォックス氏は「デジタル時代でも新聞は生き残ることができる」と意気込みを語っていました。

時代にあった編集方針で新たな読者を掘り起こし、紙の新聞は生き残れると信じていたのは、おそらく新聞人特有の大いなる勘違いです。

英国では新たな日刊紙の創刊はインディペンデント紙のコンパクト版iが発行された2010年10月以来のことでした。そのインディペンデント紙はiを残して3月に紙の新聞の発行をやめ、完全に電子版に移行しています。

ニュー・デーは40ページのタブロイド判で、1部50ペンス(約80円)。初日は宣伝のため200万部を無料配布しました。写真を多用し、現代のライフスタイルにあったニュースを政治的に中立な立場で短く、分かりやすく伝え、販売部数20万部を目指していました。

しかし、フェイスブックで廃刊を伝えたニュー・デーの編集長アリソン・フィリップス氏は「販売部数が目標に達しなかった」と現実は厳しかったことを打ち明けています。テレビの広告キャンペーンに500万ポンド(約7億7600万円)も投じたのに、実際の販売部数は3~4万部でした。これでは赤字の垂れ流しです。

小手先の編集では、紙の新聞への愛情は戻りません。ニュー・デーがやったことはもうすでにインターネット上のサイトがいくらでもやっています。ニュー・デーはソーシャルメディアは使っていたものの、ウェブサイトもありませんでした。

出典:英ABCデータをもとに筆者作成
出典:英ABCデータをもとに筆者作成

発行元のトリニティー・ミラー社は税引き前利益が1440万ポンドも減って6720万ポンドになったと報じられていました。地下鉄駅などで配布される無料紙メトロやi創刊で少し息を吹き返した英国の新聞ですが、部数減はそれでも著しく、紙の広告収入は今年第1四半期で16%も減っています。

新聞社というプラットフォームと紙の新聞というデバイス、印刷工場・配送・店頭販売・配達という流通経路はもう時代に合わなくなりました。テクノロジー会社というプラットフォームとスマホ、タブレット、PCというデバイス、インターネットという流通経路に完全に乗り換える時はもう目の前です。

ニュースを伝えるには金がかかりますが、昔に比べるとはるかに安くなりました。新しいデバイスに合ったニュースコンテンツをどうつくり、時間があまりない多忙な現代の読者にどれだけ短時間で分かりやすく伝えるのか。「紙の新聞と心中する」と豪語する大手新聞社の経営陣ではなく、21世紀を担う現場の若い記者やカメラマン1人ひとりが体当たりで考える時だと思います。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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