Yahoo!ニュース

伊勢志摩サミット G7は時代遅れの「年寄りクラブ」か

木村正人在英国際ジャーナリスト
伊勢志摩サミット 現地入りした安倍首相(写真:ロイター/アフロ)

G7は世界の中心ではなくなった

主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)が26日から始まりますが、国営新華社通信は論評で「主要新興国が参加していない時代遅れの金持ちクラブに国際社会を動かす影響力はない」と揶揄(やゆ)しています。米シンクタンク、ブルッキングス研究所のバリー・ボズワース上級研究員も「G7は依然として民主主義の産業国が議論し協調する有益なフォーラムだが、世界経済の政策を決める主要な役割は終えた」と指摘しています。

国際通貨基金(IMF)のデータによると、世界経済に占めるG7の割合は1980年の61.5%から2015年には46.6%、21年には43.9%にまで下がると予測しています。それでも国際社会や世界経済におけるG7の影響力は完全に失われたわけではありません。

出所:IMFデータをもとに筆者作成
出所:IMFデータをもとに筆者作成

協調的な財政出動に反対したドイツと英国

麻生太郎副首相・財務相は5月24日の閣議後記者会見で「財政出動は、ドイツでは憲法だか財政法でもともとできないことになっている。みんなが一斉にということができないのは最初からはっきりしている。ただ一方、どこでも今問題なのは、お金がないのではなくて需要がないということははっきりしている」と述べています。世界的に需要不足という問題がはっきりしているのに、協調した政策と行動がとれないのが今のG7です。

議長国の安倍晋三首相がサミットの地ならしのための欧州歴訪で提案した「協調的な財政出動」について、米国とカナダ、ユーロ圏のフランスとイタリアが支持しています。一方、ユーロ圏の心臓に当たるドイツが猛然と反対。財政再建を進める英国も「各国の状況に応じた経済政策を立案すべきだ」とドイツに同調しました。

欧州連合(EU)残留・離脱を問う国民投票を控えるキャメロン英首相は、残留が決まった後にドイツの協力が欠かせないのでメルケル首相に寄り添っています。

「機動的な財政出動」は昨年の独エルマウ・サミットでも首脳宣言に盛り込まれ、今年4月の主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも一致している既定路線です。

しかし「借金」という単語が「罪」という意味を持つドイツでは、ユーロ危機が落ち着いたばかりなのに財政規律を緩めるとは口が裂けても言えません。重債務国のギリシャなど南欧諸国からカネをたかられるのはドイツの納税者だからです。

未来の需要はたくさんある

ドイツや英国はともかく、ユーロ圏全体では安倍首相が提案した財政出動が必要なのは明白です。需要不足の状態が長引くとユーロ圏、引いてはEU全体が、日本と同じく「失われた20年」の長いトンネルに入って抜け出せなくなります。現在の需要はそれほど強くありませんが、未来からの需要はたくさんあります。

量子コンピューターやビッグデータ、AI(人工知能)、サイバーセキュリティー、ロボットなど本格的な情報化社会の到来に備えて、研究・開発への投資、インフラ整備、次世代の教育、労働者の訓練など未来からの需要は数え上げたらきりがありません。公共投資を充てるのか、民間投資を促すのかは確かに国によって考え方が分かれるところです。

日本の構造改革は正規と非正規の格差是正から

日本はすでに熊本地震の復旧・復興対策として7780億円の補正予算を組みました。安倍首相は17年4月に予定されている消費税率の10%への引き上げを再び延期する意向と報じられています。消費税を8%に増税した14年4月以降の消費の落ち込みを振り返ると、円高・株安に逆戻りする中で、消費税率の引き上げは賢明とは言えません。

プライマリーバランス(基礎的財政収支)が均衡して、名目成長率が長期金利を上回っていれば、国内総生産(GDP)に対する政府の借金の残高の割合は次第に下がっていきます。日銀がマイナス金利を導入したことで、長期金利が名目成長率を下回る状況が作り出しやすくなっています。しかし日本の抱えている問題は潜在成長率の低さです。

補正予算を組んだり、消費税の増税を先延ばししたり、マイナス金利を導入したりしても、日本の潜在成長率は上がりません。まず長期的な人口問題に取り組み、労働市場を柔軟にする改革が欠かせません。大量生産・大量消費の時代には大企業中心の社会設計は機能しましたが、今は労働市場だけでなく医療や社会保障の設計を一から見直す必要があります。

国税庁の民間給与実態統計調査では14年の正規社員の平均年収は477万7千円なのに、非正規は169万7千円です。実に2.8倍もの開きがあります。同一労働同一賃金が実現されると正規と非正規の賃金格差が是正され、消費が戻り、転職も活発になっていきます。この問題を放置したままで日本の再生など、あり得ないでしょう。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事