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アベノミクス「2026年、日本の財政と経済は危機的状況に」和製ソロスが大胆予言(下)

木村正人在英国際ジャーナリスト
GDP600兆円を目標に 安倍首相が会見で表明(写真:ロイター/アフロ)

国際金融都市ロンドンで世界経済危機、欧州債務危機の荒波を生き抜いた債券のヘッジファンドでは世界最大級の「キャプラ・インベストメント・マネジメント」共同創業者、浅井将雄さんは、安倍晋三首相の経済政策アベノミクスについて「2026年、日本の財政は危機的状況に瀕し、グローバル企業を除いて日本企業は世界からの撤退を強いられる」と予測します。

――日本企業としては英国のEU離脱後、新しい貿易協定がどうなるかを見ないといけません。日本企業のリスクをどう見ますか

「日経平均が1千円以上も下落する大きなインパクトがある恐れがあるので、短期的には相場はリスクオフ(回避)になる可能性があります。7月の日銀の政策決定にも大きな影響を及ぼす可能性があります。それが短期的な日本企業への影響です」

「長期的には離脱のショックを吸収するのには時間がかかると個人的には見ています。EUにとっても経済的・政治的なショックになると思います。英国が離脱すると10年後には今のような大きなEUはなくなっているでしょう。将来的にはEU自体の形が変わるということで大きな変革の始まりとなる国民投票になります」

「日本企業が見極めるのはなかなか難しい。低い法人税や良いビジネス環境、語学も含めて英国以外の欧州で大きくビジネスを展開するのは非常に難しい。どういうふうにEUパスポートを取ってビジネスを展開するか再考を要します」

「レストラン業など低賃金の仕事、移民に頼って構成されるビジネスというのも当然あります。EUから英国が離脱すると、英国の中で日本企業が人材を集めるのはコスト的に難しいと思います」

――日本では参院選の投票日を控えています。英国のEU離脱で円高・株安の影響もあり、アベノミクスの不信感が強まるのでは

「アベノミクスは、安倍政権が時間を買って、世界経済の中で政府と中央銀行を合わせた『統合政府』という考え方にチャレンジし始めています。アベノミクスという言葉でラップしていることを認識すべきだと思います。統合政府すなわち政府のファイナンスを中央銀行が、同じ政府としてファンディングをする」

「後世にツケを回す形で巨大政府を作っていく、大きな政府志向なんだと思います。これだけ強い政権であって今の経済環境で消費税の税率を8%から10%に上げられないというのは日本にとって非常に致命的な欠陥が露呈してきています」

「この欠陥をアベノミクスという言葉で覆い隠していますが、これはアベノミクスが力を失っているというより、アベノミクスが統合政府というやり方で時間を買うということを始めたことを意味します。それが後世に大きな過失を残すことを政権は分かってやっていると思います」

「安倍政権が分かってやっているのであれば国の方向性として統合政府という一つのやり方として認められると思います。ただ、消費税が上げられない以上、新しい資金収奪をしていかないといけないので、その一環として銀行セクターを通じて国民の預貯金にインパクトを与えるマイナス金利が導入されました。家計の金融資産を一部、政府の方に移していくという大きな作業がこの1月になされたということです」

「統合政府、引いてはヘリコプターマネーという言葉が使われていますが、その観点からアベノミクスは2回目の進化を始めた。最初は為替や株価にインパクトを与えるということが大きなダイナミズムでしたが、デフレ克服が難しく、為替、株価に常に影響を与えるのが難しいということで次は統合政府というものにチャレンジし始めたということだと思います」

――統合政府というのは、日銀と財務省の財布を一緒にするということでしょうか

「表向き日銀は法律で独立性が担保されていますが、実際に始まったことは日銀のマネタリーベース(通貨供給量)を大量に増やす、つまり日本全体のバランスシートは約3500兆円(家計、企業、政府の合計)あるんです。それで500兆円のGDPしか出せなくなってきている。大きなバランスシートを使いながら小さなGDPしかできていない」

「安倍政権はそれを知っていて、いまの大きな3500兆円というバランスシートを使いながら600兆円にGDPを伸ばそうとしている。この発想自体は、大きなバランスシートを使って収益を出していく、日本にとって国富を伸ばしていくというのは悪い政策ではありません」

「ただ、その3500兆円のバランスシートを伸ばしている唯一の主体が政府なんです。国債を発行して日銀が市場を通じて引き受ける。日銀のバランスシートは毎年80兆円膨らんでいるわけです。政府のバランスシートがどんどん大きくする中で、増えないGDPを増やしたいというのがアベノミクスのチャレンジなわけです」

「企業や家計のバランスシートが増えて最終的に失敗に終わったのが1990年代のバブル崩壊でした。政府が負債を増やしても、最終的には徴税権があります。国民から収奪することができます。将来的にはそういうことを行うわけですが、その間、日銀に頼ってバランスシートを増やしていこうと言うのが統合政府の考え方です」

――日銀による国債の直接引き受けが起きるということでしょうか

日本の財政状況(財務省HPより)
日本の財政状況(財務省HPより)

「国債の直接引き受けという発想は暴力的ですね。日銀は国債の直接引き受けというと反応はノーと言います。日銀は国債は市場から買っていると言うでしょう。麻生政権(平成20~21年)の時から税収は15兆円も増えています。一方、歳出は社会保障を維持するため20兆円以上も増えています」

「そういう過程で膨張する予算、膨張するバランスシートというのを誰がファンディングするのかというと国債です。それを引き受けるのは日銀です。直接のヘリコプターマネーというのは、日銀がアセットを買ったり、国民に社会保障を直接配ったりするということです。それには日銀も抵抗するでしょう」

「ただ政府がやることのファンディングは日銀の直接引き受けではありません。今国債を持っているのは日銀しかいないような状況です。昔は政府が発行した国債を銀行が持っていましたが、今は日銀が持っています。国債残高が増えれば、必ず日本全体のバランスシートは増えていきます」

「昔、橋本政権(平成8~10年)の時には国債の発行は今の約半分だったわけです。今はその倍になりました。橋本政権の時とGDPは変わりませんが、それを大きくしようとチャレンジをする。日銀は過大なファンディングの負荷を伴い、さらに将来的に失敗をすると恩恵を被る前に日本が債務過多になってしまう。国のファンディング力がどこまでかというチャレンジをしているわけです」

――市中の国債が減ってくると日銀が買えなくなってしまいます

「マイナス金利でも日銀は買えば良いんです。オペレーションができないと言っている人もいますが、買えば良いんです。本当に景気を刺激したいと思ったら、日銀は伝家の宝刀を持っています。もし日銀の黒田東彦総裁のマンデートが物価の安定を無視して良い、為替にもコミットしなくても良いということだったら、日銀はいくらでも経済成長をさせることができます。日本を世界で一番成長力が高い国にすることができます」

「日銀が輪転機を回して日銀の職員に散髪屋に行って100万円払って来いと言えば良いのです。国債の代わりに自動車をどんどん買えば良いんです。車を500万台買えば日本のGDPはドーンと上がります。日銀は実はそういう恐ろしい力を持っています。ただ、それはいろんな過程の中で財務省が日銀の資本金の55%を出資しているとか、日銀は大きくタガをはめられています」

「日銀が法律に縛られなくなると、経済成長でも起こす力がありますが、それは大きなインフレーションの始まりである可能性があることを認識しておく必要があります。コントロール不能な円安が始まります。これが統合政府とヘリコプターマネーの危険性であり、可能性であるということです」

――英国のEU離脱より日本が抱えているリスクの方がはるかに大きなように聞こえますが

「リスクの種類が違うと思いますね。英国のEU離脱による経済的なインパクトはGDPの1%です。日本で2026年に起きるショックは経済的なインパクトはGDPの5~10%になると思います」

――2026年に日本に何か起きるということですか

「団塊の世代がすべて後期高齢者(75歳以上)となり、2026年ごろには医療費が40兆円を超えてきます(2025年問題とも言う)。今の税収の60~70%が医療費になって、もうファンディングができなくなる。つまり日本のような国で医療制度が維持できなくなるということです。日本はファンディングの面でも安定性の面でも非常に大きな脆弱度を抱えることになります」

「そうなってくるとプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化というのは消費税を25%にしない限り、できなくなる。こんな強い政権でも8%を10%に引き上げられないのに、25%というのはなかなかできない」

「ファンディングは統合政府で日銀がしますが、国債としての価値はどんどん下がっていって、今はシングルAですが、ダブルBまで下がります。2026年に。日本の企業が海外でビジネスをするためにドルを調達しようとすると、ドルの調達コストが今の5倍ぐらいに跳ね上がる」

「海外でビジネスをする時にコストがかかり過ぎてできなくなる。大手の銀行が大量に今持っている海外資産を売却しなければならなくなる。日本の企業は一部のグローバル企業以外を除いてグローバルな経済活動をできなくなってしまいます」

――気が重くなる話ですね

「英国のEU離脱が起こす直接の摩擦は小さいです。決して大きいものではありません。ただ英国がEU離脱すると、スコットランド独立の是非を問う新たな住民投票が実施されるでしょう。キャメロン首相は1週間以内に辞任すると思います。保守党の新党首が欧州懐疑派(EU離脱派)から選出されます」

「SNPは、英国がEUから正式に離脱する前に、つまり2年の間に、EUに残ろうという住民投票をかけます。そうするとイングランドとスコットランドが別れることになる。さらにアイルランドとの間で国境規制がスタートしてきます。英国が今の国体を維持することは難しくなってきます」

「主権派が言っていることは少し間違っている。主権を守るためにEUから離脱すれば現実にはスコットランド独立という英国はもっと大きな主権を失うことになるのです。スコットランドが独立するというのは、日本から北海道が独立するようなものですから、非常に大きなインパクトがある」

「英国のEU離脱より、その後に控えている英国のチャレンジ、スコットランドの独立を止めるのは容易ではありません。そして、10年後、EUがこのまま大きなEUでいられることはないと思います。EUを出て行く動きが活発化します」

「スペインのカタルーニャ自治州とかも独立してしまうかもしれません。独立の気運を高めてしまいます。弱いEUになった時に求心力をキープできるのでしょうか。EUが崩壊、分離していく過程は日本のGDPよりもインパクトが大きなことなのかもしれません」

――とんでもないことが起きそうな気がしてきました

「英国のEU離脱がすべてのカードではないのです。次に出てくる英国の新首相は必ず早期にEU基本条約(リスボン条約)に沿ってEU離脱を発表してきます。僕がSNPの党首であれば公式に英国がEUから離脱する前に必ずスコットランド独立の住民投票を実施します。EU国民投票の裏にあるものは大英帝国の分離であり、EU縮小の序章なんだと思います」

「今、EUの経済を合計すると世界最大の経済圏ですが、それがなくなる。EUにとってものすごい損失は、英国はEUの中で唯一、市場志向型の大国だということです。市場志向型の大国がいなくなるという意味をEUはこれから強く認識することになると思います」

「市場がこうなんだから、市場のルールに従わないといけないと言う人がEUからいなくなると、フランスが社会主義に陥ったようにEUは徐々に左に寄っていきますよ。これは大きな方針転換です。左に寄れば寄るほど、市場主義から遠ざかれば遠ざかるほどスペインやイタリアが出ていく可能性が高まってくると思います」

「主権を取り戻そうとしてEUを離脱するのは英国だし、また英国が抜けたEUは市場志向性ではなくなるので、大きな変化が起こります。主権を選ぶと、より流動化してしまいます。裏にある、見えなくてもよいドミノが見えてきます。ドミノを倒すかどうかは国民投票で明らかになります。英国がEUを離脱しても、スコットランドが残るという可能性ももちろんあります。僕はその確率は低いと思いますが…」

――EU内でも移民の流入を制限できますか

「シェンゲン協定でもこんなに低い規制にしたのは政治ですから、また上げることはできますよ。不可能ではないと思います。また新たなルールを作るのも政治の重要なファクターだと思います。見えなかったドミノが見えた場合、そちらに吸い寄せられてしまいそうな気がします。一種の心理学だと思いますね」

(おわり)

「離脱なら大英帝国分裂、EU縮小のドミノ倒しが始まる」和製ソロスが大胆予言(上)

浅井将雄さん
浅井将雄さん

浅井将雄(あさい・まさお)

旧UFJ銀行出身。2003年、ロンドンに赴任、UFJ銀行現法で戦略トレーディング部長を経て、04年、東京三菱銀行とUFJ銀行が合併した際、同僚の中国系米国人ヤン・フー氏とともに14人を引き連れて独立。05年10月から「キャプラ・インベストメント・マネジメント」の運用を始める。米マサチューセッツ工科大やコロンビア大教授ら多くの博士号取得者が働く。ニューヨーク、東京、香港にも拠点を置く。日本子会社の取締役には「ミスター円」の愛称で知られる元財務官の榊原英資(さかきばら・えいすけ)氏、ノーベル経済学賞受賞者のマイケル・スペンス氏もアドバイザーの1人だ。債券系ヘッジファンドではロンドン最大級、ヘッジファンド預り資産でもロンドントップ5。旗艦ファンドのキャプラグローバルリラティヴバリューファンドでは運用開始以来、リーマンショック期も含め、全年度にてプラスを計上、平均年度収益も10%を超える。

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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