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在イギリス北朝鮮大使館の外交官が亡命した 金正恩の恐怖政治は崩壊する

木村正人在英国際ジャーナリスト
北朝鮮36年ぶりの党大会で祝賀パレードに姿を見せた金正恩(写真:ロイター/アフロ)

北朝鮮の金正恩第1書記の恐怖政治に在イギリス北朝鮮大使館の外交官も逃げ出して亡命した――。こんなビッグニュースを韓国の中央日報が16日、報じました。英外務省に確認の電話を入れたところ、「私たちはこのニュースについてコメントしない」と否定も肯定もしませんでした。

政府は亡命や情報機関に関係する事案についてはコメントしないのが普通です。

北朝鮮問題に詳しいシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)のワシントン事務所長、マーク・フィッツパトリック氏は筆者に次のような見方を示しました。

「駐英北朝鮮大使館の外交官が家族を危険にさらすことなく亡命できるとしたら、世界中の北朝鮮の外交官全員が(その気になれば)亡命できるということでしょう。彼らは金正恩の体制がいかに腐敗し、ひどいものかを知っています。今回のケースでは、外交官の家族も英国にやって来て住んだあと、西側の自由の有り難さを知りました」

「彼らにとって弾圧・迫害がある北朝鮮に戻るという選択肢は極めて難しいものだったのでしょう。彼らは常に家族全体が体制から追放される原因を作ることを恐れなければなりません。もっと多くの外交官が亡命することを望んでいます」

中央日報が匿名情報筋の話として報じたところによると、8月初め、ロンドンにある北朝鮮大使館に勤務する外交官が家族と子供たちを連れて第三国に亡命しました。この外交官は通常の領事業務のほか、ロンドンに定住している北朝鮮亡命者の追跡調査を以前は担当していたそうです。

在英北朝鮮大使館にはHyon Hak Bong大使のほか、5人の大使館員が勤務しています。亡命した外交官とみられるのは、Thae Yong Ho公使のようです。英紙ガーディアンによると、同公使の一番下の息子はロンドン西部の学校に通っていましたが、7月中旬から姿を消したそうです。フェイスブックやワッツアップで連絡を取り合っていた同級生は「全てのアカウントが突然、閉じられた」と証言しています。公使の息子はインペリアル・カレッジ・ロンドンに進学し、数学とコンピューター・サイエンスを学ぶ予定でした。

北朝鮮の現外相は前の在イギリス大使だったそうです。現在のHyun Hak Bong大使とは頻繁に情報交換しているとのことです。北朝鮮のエリート層の亡命が相次いでおり、金正恩体制を見限り始めています。在外外交官への監視の目も十分には行き届かなくなっているようです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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