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リベンジポルノで206人起訴も氷山の一角 どんどん増えるネット上の性的嫌がらせ 英検察庁報告書

木村正人在英国際ジャーナリスト
英国ではオンライン上の性的嫌がらせやいじめが過去最高を記録(写真:アフロ)

英国のイングランド、ウェールズ地方では昨年4月からリベンジポルノ防止法が導入されました。英検察庁が6日発表した年次報告書で、昨年4月から今年3月にかけ両地方で206人がリベンジポルノ防止法違反の罪で起訴されたことが分かりました。英BBC放送や英紙ガーディアンが一斉に報じました。

民間支援団体にはリベンジポルノに関連して1年間で3700人以上の被害者が相談を寄せており、起訴されたのは氷山の一角であることが分かります。ガーディアン紙で取り上げられた事例をみると、被害者が受けた社会的、精神的なダメージに比べると、刑罰が軽すぎるような気もします。

フェイスブックを通じて被害女性の性的な姿の写真をその家族に送りつけたり、将来、写真をオンライン上で公開するぞと脅したりしていた男は法廷で罪を認め、禁固12週間、執行猶予18カ月の判決を受けました。男は女性の同意を得ずにプライベートな性的写真を公表した罪に問われました。

また別の男は女性に気づかれないように性的な写真を撮影し、フェイスブックに投稿していました。男は1年の社会奉仕活動と被害女性に対する無期限の接近禁止、罰金110ポンド、法廷費用295ポンドの支払いを命じられました。

リベンジポルノ以外でもオンラインを使った性的嫌がらせやいじめは過去最高を記録し、1年間で1万2986人が起訴されました。家庭内暴力やレイプ(強姦)、性犯罪が全体に占める割合はこの6年間で9%弱から18.6%にまでハネ上がりました。レイプで起訴された人は過去最高の4643人。児童性的虐待で起訴されたのは1年間で15.4%も増えて6217人にのぼっています。

リベンジポルノとは、交際していた男性や女性にふられた腹いせのため、インターネットなどを通じて交際時の性的な写真や動画を公表することです。日本でも2014年11月に、リベンジポルノやいじめだけでなく、盗撮した性的な写真や動画をインターネット上で公表する行為を取り締まるため、「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(リベンジポルノ防止法)」が施行されました。

写真や動画を公表すると、3年以下の懲役または50万円以下の罰金。公表目的で写真や動画を提供した場合も、1年以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。

警察庁によると、日本ではリベンジポルノに関連して14年に110件、15年に1143件の相談が警察に寄せられました。15年の統計から被害者と加害者の関係をみると、交際相手・元交際相手が最も多く63.4%、オンライン上の知人友人が11.4%、オフラインの知人友人が9.9%、配偶者・元配偶者が4.6%でした。

15年には53件がリベンジポルノ防止法で、250件が脅迫罪、児童買春・児童ポルノ禁止法違反などで摘発されています。

日本ではインターネット上で公表されてしまった性的な写真や動画についてプロバイダーなどを通じて削除を要請できます。しかし、いったんインターネット上で拡散してしまうと、完全に削除するのは事実上、不可能です。

最善のリベンジポルノ防止策は性的な写真や動画を撮らせないことです。交際相手から「裸の写真や動画を撮らせほしい」「送信してほしい」と言われても、きっぱり断ることが大切です。最近のカメラやビデオは小型化し、知らないうちに盗撮される恐れがあります。携帯電話の連絡先を勝手に抜き取り、送信する悪質なアプリもあるので要注意です。

インターネットが発達して便利な世の中になりました。その一方で盗撮などが容易になったため犯行時に良心の呵責を感じなくなり、インターネットの拡散力が被害を幾何級数的に拡大するようになりました。リベンジポルノなど、インターネット上の性的嫌がらせが増加の一途をたどるならリベンジポルノ防止法の厳罰化も検討する必要が出てくるでしょう。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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