初の「核弾頭」爆発実験 北朝鮮の核兵器開発を黙認する中国
北朝鮮は建国記念日の9日、初の「核弾頭」爆発実験を実施したと発表しました。核実験は今年1月に行われたばかりで、これで5回目。年に2回の実施は初めてです。日本時間の午前9時半ごろ、日本の気象庁は北朝鮮を震源とするマグニチュード(M)5.3の地震を観測、自然地震ではなく過去の核実験と同じ震動波形を示しています。
韓国気象庁の専門家は米CNNに対して「核爆発の威力を示す核出力は1月の倍近くになる10キロトンだ」と話しています。
国際情報コンサルタント IHSカントリーリスクのエバンス上級アナリストは次のように分析しています。
「 今回の核出力は10-20 キロトンとみられています。正確な威力はこれから分かると思いますが、10キロトンでも相当な威力です。もしロンドンの観光名所トラファルガー広場で爆発したらバッキンガム宮殿から金融街シティーまで跡形もなく吹き飛んでしまいます」
「 経済制裁を強化しても、北朝鮮がすでに保有しているとみられる15-20個の核兵器はどうすることもできないのです」
日本の気象庁発表から地震の震動波形を見てみましょう。
一番上が今回、2番目が2013年2月の3回目核実験、一番下が核実験の震源に近い場所で02年に観測された自然地震の振動波形です。自然地震では最初に小さなP波が観測され、次に大きなS波が到達します。核実験による人工地震である上の2つのグラフを見ると突然大きな揺れが観測されていることが分かります。
次に震央を見ると少しずつ動いていますが、5回とも核実験場がある咸鏡北道吉州郡豊渓里(プンゲリ)を指しています。
北朝鮮国営の朝鮮中央テレビは9日、次のような核兵器研究所の声明を伝えています。
「新しく研究、製造された核弾頭の威力を測定するため核爆発実験が行われた」
「戦略的弾道ミサイルに搭載できるよう規格化された核弾頭の構造や動態特性、性能、威力を最終テストした」
「核弾頭の規格化によって北朝鮮は、打撃力の高い小型化、軽量化、多様化された多種の核弾頭を望むだけ製造することができるようになる」
北朝鮮の核実験は5回目ですが、核弾頭のテストが本当だとするとこれが初めて。声明のポイントは、戦略的弾道ミサイル用に規格化された核弾頭のテストを実施したという点です。北朝鮮側の発表には当然、ハッタリや思惑が含まれていますが、米国を狙える長距離弾道ミサイルに搭載できる核弾頭を大量生産する態勢は整いつつあると米国を脅しているのです。
日本政府は9日午前、国家安全保障会議(NSC)を開催し、安倍晋三首相が声明を出しました。
「今回の北朝鮮による核実験の実施は、関連する国連安全保障理事会決議の重ねての明白な違反であり、核兵器不拡散条約(NPT)を中心とする国際的な軍縮・不拡散体制に対する重大な挑戦である。日朝平壌宣言や6者会合共同声明にも違反する。わが国は、北朝鮮に対して厳重に抗議し、最も強い言葉で非難する」
しかし日本に切れるカードがあるのでしょうか。国連安保理は4回目の核実験や長距離弾道ミサイル発射を受け、3月に北朝鮮産鉱物の輸入禁止のほか、北朝鮮に出入りする貨物検査や金融制裁の強化を盛り込んだ制裁決議を採択しました。しかし北朝鮮の核・ミサイル開発は止まる気配はまったくありません。
北朝鮮の金正恩委員長は3月、「核弾頭爆発実験」を実施すると初めて発言。5月の朝鮮労働党大会で、経済再建と核開発を同時に進める「並進路線」を党規約に明記し、自らを「責任ある核保有国」と位置付けました。中距離弾道ミサイル「ムスダン」や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)などを今年に入って21発、発射しています。
在韓米軍への地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)配備決定への牽制もありますが、外交官や海外派遣労働者の亡命が相次ぎ、金正恩体制の足元が崩れる中、核弾頭爆発実験の成功を国内外に大々的に誇示することで、自らの体制を一段と強化したい狙いの方が大きいのではないでしょうか。
韓国国際貿易協会(KITA)の統計では、7月、中国の対北朝鮮輸出は昨年同月に比べ27.6%減って1億9300万ドルになりました。北朝鮮からの輸入も5%減の2億2700万ドルです。中朝貿易は減っているのですが、読売新聞の報道は中国の北朝鮮への石油供給は逆に増えていると指摘しています。
北朝鮮の核・ミサイル開発を止めることができないのは、中国が北朝鮮の体制崩壊を恐れて、経済制裁に手加減を加えているからです。中国は北朝鮮が攻撃のために核兵器を先制使用することはないと考えており、金正恩が核兵器を手放すよう十分な圧力をかけるつもりはまったくないのです。
(おわり)