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米大統領選 健康不安が再浮上したヒラリーに「赤信号」 トランプ大逆転シナリオに現実味

木村正人在英国際ジャーナリスト
クリントン氏健康不安再燃 同時テロ式典で途中退席(写真:ロイター/アフロ)

米大統領選が終盤に差し掛かる中、ニューヨークで11日朝、行われていた米中枢同時多発テロ15周年追悼式で民主党候補のヒラリー・クリントン(68)が体調を崩して途中退席、崩れるようになりながらセキュリティー・ガードに両脇を抱えられてバンに運び込まれる様子が録画され、ソーシャルメディア上で一気に拡散しました。

ヒラリーは2012年12月に胃と腸の炎症で脱水症状を起こし、気を失って頭を打ち、脳震盪と診断されたことがあります。その時にできた血栓治療のため、その後入院しています。元大統領の夫ビル・クリントンは14年に、ヒラリーが完全回復するまでに半年を要したことを明らかにしています。

今回の大統領選でも9月に入ってレイバー・デーの演説をした際、咳が止まらず、健康不安が再浮上していました。この時、クリントン陣営は「季節性アレルギーだ」と説明しました。

共和党候補のドナルド・トランプ(70)陣営は以前から「ヒラリーは強さとスタミナが不足している」と批判してきました。ヒラリーは12~13日に予定していたカリフォルニア州での選挙活動を中止しました。14日のネバダ州南部ラスベガス行きも危ぶまれています。ヒラリーの主治医は次のような声明を出しました。

「クリントン前国務長官はアレルギー性の咳をしていました。9日の金曜日、長引く咳を診たところ、肺炎と分かりました。抗生物質を投与され、休養を取り、日程を入れすぎないようアドバイスされました。追悼式では暑くなりすぎて脱水症状を起こしました。今は、水分を補給し、脱水症状から完全に回復しています」

当時の気温は摂氏28度前後でした。米紙ワシントン・ポストからヒラリーの行動を再現してみましょう。

午前8時18分(現地時間)、追悼式会場に到着

9時36分、同行記者団が、ヒラリーが会場を去っていたことに気づく

9時48分までに、ヒラリー陣営が、ヒラリーが会場を去ったことを認める

11時、ヒラリー陣営が詳細情報を提供

正午前、ヒラリーはニューヨークにある娘の住居前に姿を現し、少女を抱きしめて写真撮影に応じる。報道陣の質問に「気分は最高よ。ニューヨークは良い天気ね」と言って車列に乗り込む

12年の血栓治療時もヒラリーはなかなか健康状態の情報を開示しようとしなかったため、今回も何か隠しているのではと米メディアは疑っているようです。

終盤に入った米大統領選はヒラリーのリードが続いていますが、「リアル・クリア・ポリティックス」というサイトのデータから作成したグラフを見ると、次第に接戦になっていることが分かります。

出所:「リアル・クリア・ポリティックス」データより筆者作成
出所:「リアル・クリア・ポリティックス」データより筆者作成

ヒラリーのリードは直近では平均で3.1%ポイントしかありません。

出所:同
出所:同

ヒラリーがトランプ支持者の半分は人種差別主義者、男女差別主義者、同性愛者や外国人やイスラム教徒に偏見を持つ「嘆かわしい人たちだ」と批判したことで反発を招きました。政治家が有権者を批判するのはどこの国でもご法度です。

差は縮まってきているとは言え、世論調査の支持率でリードするヒラリーには焦りが見られます。大統領選の動向をウォッチしているサイト「270TOWIN」は、大統領を選出する選挙人団538人のうち、ヒラリーが獲得を確実にしているのが222人、トランプは163人と分析しています。どちらに転ぶか分からない州のうち、最も多い選挙人29人を擁するフロリダ州の状況は非常に拮抗しています。

出所:同
出所:同

ヒラリーのリードは直近の平均で0.6%ポイントです。フロリダ州を制したものが、大統領選を制すと言われているだけに、トランプ大統領が誕生しても不思議ではない状況になってきています。

出所:同
出所:同

第32代大統領フランクリン・ルーズベルト(1882~1945年)は44年11月、前例のない4選を果たしたものの、第二次大戦の勝利を目前にした45年4月、脳溢血で亡くなっています。大統領選ではルーズベルトの健康不安がウワサになりましたが、側近はルーズベルトの心臓疾患を隠し通しました。

世界の最高権力者とも言える米大統領は激務です。選挙戦終盤で再浮上した健康不安は米国初の女性大統領を目指すヒラリーにとって「致命傷」になる恐れがあります。健康不安は有権者の目に非常に分かりやすく映るからです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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