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「トランプ大統領」を誕生させるのはロシア大統領プーチン とどめはヒラリーの私用メールだ

木村正人在英国際ジャーナリスト
「トランプ大統領」はもはやジョークではなくなった(写真:ロイター/アフロ)

「ヒラリーは強欲」

米共和党と民主党の大統領に仕えた元米国務長官コリン・パウエルが米大統領選の共和党候補ドナルド・トランプと民主党候補のヒラリー・クリントンを酷評している電子メールがDCリークスのサイトで9月13日に公開されました。パウエルの電子メールが大量にハッキングされたことから、ロシアの大統領ウラジミール・プーチンが背後で糸を引いている可能性が指摘されています。

米ワシントンに拠点を置くDCリークスは世界中の政治家と高官、その側近らの電子メールを暴露しているサイトです。パウエルは電子メールの中でトランプを「国家の恥」「国際社会ののけ者」「(大統領オバマが米国生まれかどうかを質問するとは)人種差別主義者だ」と切り捨てる一方で、ヒラリーについても批判しています。

ヒラリーが国務長官在任中に個人の電子メールアドレスを公務に使っていた問題について、パウエルも国務長官時代に私用アドレスを使っていたと主張したことについて、パウエルは「悲しいことだ」「私は3回も彼女のスタッフにその手口は使わないように伝えた」と電子メールの中で釈明しています。

2014年にやり取りされた電子メールの中では、パウエルは「彼女に投票しなければならないことはないだろう」と記し、ヒラリーを「際限のない野望の持ち主で強欲、頑固という長い記録がある」とこき下ろしています。皮肉にも政治的影響力の大きな人が私用アドレスを使う危険性をパウエル自身が証明して見せた形になりました。

トランプが6%ポイントリード

ヒラリーをめぐっては9月11日、米中枢同時テロの15周年追悼式典を途中退席し、健康不安説が再燃したばかりです。08年と12年の米大統領選最終盤で民主党候補のオバマを支持したパウエルがトランプよりヒラリーを支持しているのは明白です。しかし「際限のない野望の持ち主で強欲」と批判するパウエルの電子メールの漏洩はヒラリー陣営には大打撃です。

米紙ロサンゼルス・タイムズの最新世論調査ではトランプがヒラリーを6%ポイントも引き離しています。大統領選の行方を左右する激戦地フロリダ州でもトランプが4%ポイント、リードしています。「トランプ大統領」が誕生しても何の不思議もない状況です。しかもヒラリーが国務長官時代に使っていた私用アドレスの電子メールがこれから大量リークされないという保証は何一つないのです。

米国の政府機関や企業は常に世界中のハッカーに狙われており、米大統領選に絡んで民主党全国委員会(DNC)の電子メールがハッキングされ、告発サイト「ウィキリークス」にリークされています。米政府高官やサイバーセキュリティーの専門家はロシア政府のために働くハッカーを非難しています。米国防長官アシュトン・カーターはロシアに対して、「米国は我々の民主システムに介入しようとする試みを見逃さない」と警告を発しています。

ロシアはサイバー空間を使って北大西洋条約機構(NATO)欧州加盟国の民主プロセスにも影響を与えている疑いがこれまで何度も指摘されています。これに対してロシア当局は「そんなことはしていない」と全面否定しています。

ウエブカメラを塞いだFBI長官

米連邦捜査局(FBI)の長官ジェームズ・コミーはパソコンのウエブカメラにテープを張って塞ぎ、「これはあなたがしなければならない重要なことだ」と警鐘を鳴らしています。FBI長官は最近、開かれた情報・国家安全保障サミットでこう話しました。「米大統領選ではまだパンチカードが使われており、それが幸いしている」と米大統領選の投票がハッカーに乗っ取られる最悪シナリオは否定しました。

KGB(国家保安委員会)出身のプーチンは情報活動や心理戦に長じ、クリミア併合とウクライナ危機ではサイバー空間を含めたハイブリッド戦争を仕掛けてきました。欧州の極右政党に秘密資金を与え、欧州の統合プロジェクトを崩壊させようとしているとも言われています。トランプは「ロシアが行方の分からないヒラリーの電子メール3万通を発見することを望んでいる」と呼びかけています。

ヒラリーの電子メール3万通がロシアの情報機関の手に落ちていたら、ヒラリーは完全にアウトです。相性が良さそうなトランプとプーチンで「米露雪解け」となるのでしょうか。IoT(モノのインターネット)が注目されていますが、時代遅れであることが「最大のセキュリティー」なのかもしれません。あなたはパソコンのウエブカメラにテープを貼っていますか。ちなみにフェイスブックの最高経営責任者(CEO)マーク・ザッカーバーグもウエブカメラをテープで覆っているそうです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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