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世界大学ランキング 東大39位、シンガポール・中国勢躍進 日本は地盤沈下

木村正人在英国際ジャーナリスト
東京大学はもはや「アジアの雄」ではなくなった(写真:ロイター/アフロ)

タイムズ・ハイヤー・エデュケーション世界大学ランキング2016-17年(上位980校)が21日午後9時(日本時間22日午前5時)に発表されました。東京大学は前年の43位から39位に回復したものの、シンガポール国立大学の24位、中国の北京大学の29位、清華大学の35位に及びませんでした。

日本からトップ200大学に入ったのは東京大学と京都大学の2校だけで、京都大学は88位から91位に後退しました。安倍晋三首相は10年間で世界大学ランキング100位以内に10校以上をランクインさせる目標を掲げていますが、アジアの中でも日本の大学は競争力を失い、地盤沈下が目立ってきています。

編集長のフィル・バティ氏は次のように述べています。

「日本は多くの近隣諸国と比較して上位に入る大学の数が少ないのに対して、香港の大学は5校、中国と韓国の大学はそれぞれ4校入っています。14‐15年ランキングまでアジア首位を守っていた東京大学は現在アジア4位。今後数年間で、より多くのアジアの上位大学が順位を大きく上げて世界のエリートに加わることは確実です。日本は後れを取らないようにしなければなりません」

上位200校に入ったアジアの大学

日本2校(14‐15年、5校)

香港5校(4校)

中国4校(3校)

韓国4校(4校)

シンガポール2校(2校)

台湾1校(1校)

バティ氏は続けます。「アジアが大学分野でも次の成長地域という見方は目新しさがなくなりました。今年のランキングからはアジアの大学の順位上昇が本物であり、成長していることがわかります。アジア24カ国の大学290校がランキング入りしており、エリート校の19校(昨年は15校)が上位200校に入っています」

「日本を除くとアジアから2校が上位100校に入りました。中国の北京大学は、29位(昨年は42位)と上位30位に入り、清華大学は35位(昨年は47位)で上位40位に入りました。香港を代表する6校のうち5校が上位200校に入り、他のアジア地域より多くの大学が上位に入っています」

「一方、韓国の大学の順位も大きく伸びています。アジアトップの大学であるシンガポール国立大学は史上最高の24位に入りました。インドの大学の順位が向上してきたことも明るい材料です。最も有力な大学であるインド理科大学院は史上最高位となる201~250位に入っており、上位200校にジワリと近づいています。今後数年間で、より多くのアジアの上位大学が世界のエリート校に加わることは確実です」

日本の大学ランキング

16-17年日本の大学の順位(15-16年順位)大学名(〇はスーパーグローバル大学トップ型指定校)

39(43)東京大学〇

91(88)京都大学〇

201‐250(201‐250)東北大学〇

251‐300(251‐300)大阪大学〇

251‐300(201‐250)東京工業大学〇

301‐350(301‐350)名古屋大学〇

351‐400(401-500)九州大学〇

351‐400(未報告)豊田工業大学

401‐500(401‐500)北海道大学〇

401‐500(401‐500)東京医科歯科大学 (TMDU)〇

401‐500(401‐500)首都大学東京

401‐500(401‐500)筑波大学〇

501‐600(501‐600)広島大学〇

601‐800(601‐800)千葉大学

601‐800(601‐800)愛媛大学

601‐800(未報告)東京慈恵会医科大学

601‐800(601‐800)順天堂大学

601‐800(501‐600)金沢大学

601‐800(501‐600)慶応大学〇

601‐800(601‐800)近畿大学

601‐800(601‐800)神戸大学

601‐800(未報告)高知大学

601‐800(601‐800)熊本大学

601‐800(601‐800)長崎大学

601‐800(未報告)名古屋市立大学

601‐800(未報告)名古屋工業大学

601‐800(601‐800)新潟大学

601‐800(601‐800)岡山大学

601‐800(501‐600)大阪市立大学

601‐800(601‐800)信州大学

601‐800(601‐800)徳島大学

601‐800(501‐600)東京農工大学

601‐800(601‐800)東京理科大学

601‐800(601‐800)豊橋技術科学大

601‐800(601‐800)早稲田大学〇

601‐800(未報告)山形大学

601‐800(未報告)山梨大学

601‐800(601‐800)横浜市立大学

801位以下(未報告)千葉工業大学

801位以下(未報告)中央大学

801位以下(未報告)同志社大学

801位以下(601‐800)岐阜大学

801位以下(未報告)群馬大学

801位以下(未報告)法政大学

801位以下(未報告)岩手大学

801位以下(未報告)関西大学

801位以下(未報告)関西学院大学

801位以下(601‐800)九州工業大学

801位以下(未報告)明治大学

801位以下(未報告)長岡技術科学大学

801位以下(未報告)大分大学

801位以下(601‐800)大阪府立大学

801位以下(未報告)立命館大学

801位以下(未報告)埼玉医科大学

801位以下(601‐800)埼玉大学

801位以下(未報告)芝浦工業大学

801位以下(未報告)島根大学

801位以下(未報告)静岡大学

801位以下(601‐800)昭和大学

801位以下(601‐800)上智大学

801位以下(601‐800)東海大学

801位以下(未報告)東京都市大学

801位以下(未報告)東京電機大学

801位以下(601‐800)東京海洋大学

801位以下 601‐800位 鳥取大学

801位以下(未報告)富山大学

801位以下(未報告)宇都宮大学

801位以下(未報告)山口大学

801位以下(601‐800)横浜国立大学

日本の大学政策についてバティ氏はこう分析します。

「日本政府は日本の大学制度の欠点を認識し、改革に取り組んでいます。日本の大学は資金不足で、概して海外の才能を取り込むことや、研究者に対して海外の同僚と共同研究を奨励することが上手ではありません。そこで2014年、政府は世界規模での競争と国際化のための特別資金提供プログラムを立ち上げました」

「これに続いて、英語のみで行う学部プログラムの作成を目的としたグローバル30プロジェクトが策定されました。日本は上位980校のリストの中に69校も入る素晴らしい成績を残しており、アジアでは最も多くの大学がランク入りした国でした。上位400校の中に昨年は6校入っていましたが、今年は8校入っています」

日本の上位大学がふるわない理由ははっきりしています。民進党の蓮舫代表の「二重国籍」問題でも明らかになったように、社会に血統主義が根強く残り、排他的な「純血主義」がはびこっているからです。蓮舫代表が首相を目指すなら台湾籍からの離脱は必須でしょう。

しかし「国籍唯一の原則」にこだわり「二重国籍」を排除しているため、海外に流出したり、海外で生まれたりした優秀な人材が外国籍を取得した場合、日本国籍を放棄しなければなりません。青色発光ダイオード(LED)の開発でノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏が米国籍を取得したからと言って日本国籍からの離脱を強制することが賢明なことなのか、考えなければなりません。

日本の伝統的な仕組みは人やモノ、資本が自由に行き来するグローバル時代に全く対応していません。才能はより良き環境を求めて移動していきます。日本の大学が地盤沈下しているのは、言葉や伝統、文化の壁が高く、優秀な人材が海外から来にくいからです。

世界のトップ大学がひしめく英国では世界中の頭脳を確保するため、恐ろしいほどの勢いで大学に資本が投じられています。一方、日本では少子化による人口減少で大学ビジネスの成長が期待できず、大きな投資を呼び込めていません。日本の大学のランキングを見ても上位校が文部科学省のスーパーグローバル大学トップ型指定校と一致していません。

世界の大学・大学院の学生数はこの10年で倍増しており、大学には大きなビジネスチャンスがあります。理系の優位性がまだ残っているうちに、グローバル化への対応と人材確保、資本投入、成果主義を徹底しないと、日本の大学の上位校の地盤沈下は止まらないでしょう。大学のグローバル化に順応できなければ、グローバル人材を養成するのも無理な話だと思います。

世界大学ランキングトップ50校

16-17年(15-16年)大学名

1(2)オックスフォード大学、英国

2(1)カリフォルニア工科大学、米国

3(3)スタンフォード大学、米国

4(4)ケンブリッジ大学、英国

5(5)マサチューセッツ工科大学、米国

6(6)ハーバード大学、米国

7(7)プリンストン大学、米国

8(8)インペリアル・カレッジ・ロンドン、英国

9(9)チューリッヒ工科大学、スイス

10(13)カリフォルニア大学バークレー校、米国

10(10)シカゴ大学、米国

12(12)イェール大学、米国

13(17)ペンシルバニア大学、米国

14(16)カリフォルニア大学ロサンゼルス校、米国

15(14)ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン、英国

16(15)コロンビア大学、米国

17(11)ジョン・ホプキンス大学、米国

18(20)デューク大学、米国

19(18)コーネル大学、米国

20(25)ノースウェスタン大学、米国

21(21)ミシガン大学、米国

22(19)トロント大学、カナダ

23(22)カーネギーメロン大学、米国

24(26)シンガポール国立大学、シンガポール

25(23)ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、英国

25(32)ワシントン大学、米国

27(24)エディンバラ大学、英国

28(28)カロリンスカ研究所、スウェーデン

29(42)北京大学、中国

30(31)スイス連邦工科大学ローザンヌ校、スイス

30(29)ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン、ドイツ

32(30)ニューヨーク大学、米国

33(41)ジョージア工科大学、米国

33(33)メルボルン大学、オーストラリア

35(47)清華大学、中国

36(34)ブリティッシュコロンビア大学、カナダ

36(36)イリノイ大学アーバナ、米国

36(27)キングス・カレッジ・ロンドン、英国

39(43)東京大学、日本

40(35)ルーヴェン・カトリック大学、ベルギー

41(39)カリフォルニア大学サンディエゴ校、米国

42(38)マギル大学、カナダ

43(37)ルプレヒト・カール大学ハイデルベルク、ドイツ

43(44)香港大学、香港

45(50)ウィスコンシン大学マディソン校、米国

46(53)ミュンヘン工科大学、ドイツ

47(52)オーストラリア国立大学、オーストラリア

48(39)カリフォルニア大学サンタバーバラ校、米国

49(59)香港科技大学、香港

50(46)テキサス大学オースティン校、米国

以下はアジア・太平洋の大学

54(55)南洋理工大学、シンガポール

60(60)クィーンズランド大学、オーストラリア

60(56)シドニー大学、オーストラリア

72(85)ソウル大学校、韓国

74(73)モナシュ大学、オーストラリア

76(138)香港中文大学、香港

78(82)ニューサウスウェールズ大学、オーストラリア

89(148)KAIST 、韓国

91(88)京都大学、日本

104(116)浦項工科大学校、韓国

119(201-250)香港城市大学、香港

125(109)西オーストラリア大学、オーストラリア

137(153)成均館大学校、韓国

142(149)アデレード大学、オーストラリア

153(201‐250)中国科学技術大学、中国

155(201‐250)復旦大学、中国

192(201‐250)香港理工大学、香港

195(167)国立台湾大学、台湾

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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