「あなたはEU（欧州連合）がハンガリー議会の同意なしに外国人の受け入れを義務付けることを望みますか？」

命からがら地中海を渡ってきた難民の通り道になったハンガリーで10月2日、EUが割り当てた難民の受け入れ枠についての可否を問う国民投票が行われました。投票率は要件の50％を下回る43.9％に留まりましたが、EU割当制への反対派は投票者の98.3％に達しました。

反対派を率いたオルバン首相は「EUの政策決定者はハンガリーの国民投票の結果に留意しなければならない。国民投票の結果が法的拘束力を持つよう憲法を改正する」と勝利宣言をしました。しかし投票率が50％に満たないと国民投票は無効であることから投票ボイコットを呼びかけていた賛成派は「低投票率は大半の国民がオルバン政権を支持していない証拠だ」と反発しています。

ドイツでも難民への「門戸開放」を掲げたメルケル首相が反難民の新興政党「ドイツのための選択肢」の台頭に立ち往生しており、EUの難民政策は大きく後退する恐れがあります。まずEUへの難民流入の現状を見ておきましょう。

国連難民高等弁務官事務所（UNHCR）のまとめによると、昨年、地中海を渡ったシリアやアフガニスタン、イラクなどの難民は101万5078人です。ハンガリーは、トルコからギリシャに渡り、バルカン半島を北上してドイツやスウェーデンに向かう難民の通り道になりました。

有刺鉄線で国境封鎖したハンガリー

このため、ハンガリーは昨年夏、首都のブダペスト東駅を封鎖したり、セルビアとの国境177キロに高さ約3.5メートルの有刺鉄線付きフェンスを設けたりして難民の流入をシャットアウトしようとしました。オルバン首相は「非自由主義国家」を宣言し、ロシアのプーチン大統領へのシンパシーを表明しています。

直近1年のデータをEU統計局（ユーロスタット）から拾ってみると、ハンガリーではEU加盟国の中では3番目に多い13万690人が難民認定の1次申請を行っています。しかし受け入れを認めたのはたった525人です。

EUは昨年9月、難民の上陸地となっているギリシャやイタリアの負担を減らすため、人口や経済力に応じて難民16万人の再移転受け入れ枠を決めましたが、ハンガリーやチェコ、スロバキア、ルーマニアの4カ国は反対しました。応じない加盟国には国内総生産（GDP）の0.002％の罰金が課せられます。

今年3月のEU・トルコ合意でトルコ側の国境管理が強化されたため、それ以降、EU域内への難民流入は激減しています。

「移民増えればテロの危険増す」

ハンガリーには1294人の受け入れが割り当てられました。しかしハンガリーは大量の難民を受け入れた歴史的な経験に乏しく、若者の国外流出や少子高齢化によって人口減少が続いているため、難民を受け入れるとハンガリーのアイデンティティーが失われてしまうという社会不安が強まっていました。

オルバン首相は「移民が増えれば、テロの危険性が高まる」と繰り返し、紛争から逃れてきた難民も「不法移民」と決めつけました。今年５月に国民投票の実施を決定しました。在ハンガリー日本大使館のまとめによると、オルバン政権は国民投票への参加を呼びかけるキャンペーン広告「知っていましたか？」で次のようなメッセージを掲載したそうです。

「昨年、150 万人の不法移民が欧州に到着しました」

「パリのテロ事件は移民によって引き起こされました」

「移民危機が始まって以来、欧州では 300 人以上がテロ攻撃によって死亡しました」

「移民危機が始まって以来、欧州では婦女暴行事件の件数が飛躍的に増加しています」

「ブリュッセルは１つの街ほどの規模の人数の不法移民をハンガリーに割り当てようとしています」

「リビアからだけでも約 100 万人の移民が欧州に来ることを希望しています」

因果関係のはっきりしないデータを結びつけて、「難民は実際は、経済移民で不法移民だ」「難民は犯罪者」「難民はテロリスト」という先入観と偏見を植え付けようとしています。ポーランドでも同じように反難民感情が高まっており、今後、旧共産圏の加盟国とEUとの対立がさらに激しくなりそうです。

在ハンガリー日本大使館のまとめによると、シンクタンク「ネーズーポント」が8月に実施した世論調査によると、回答者の81％が不法移民の中にテロリストがいる可能性があると考えていました。

過去に「少数民族ロマは動物」「14 才以上の移民は潜在的な殺人犯」と書き、批判を浴びたことがあるジャーナリストのゾルト・バイエル氏に、政府からハンガリー功労勲章騎士十字型章が授与されました。バイエル氏はオルバン首相に非常に近く、人種差別的、排外主義的な論説で知られています。このため科学者、芸術家、学者ら100人以上が抗議のため勲章を返上する事態に発展しているそうです。

（おわり）