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トランプは「変態プレー」撮られた? 恐ろしすぎるプーチンVS英米スパイ戦争

木村正人在英国際ジャーナリスト
トランプの「変態プレー」を暴露した報告書(米バズフィードが公開)

衝撃広げた35ページの報告書

世紀の差別主義者ドナルド・トランプ氏が米大統領選に当選してから、何がウソかマコトか分からなくなってきました。そのトランプがモスクワの超豪華ホテル、リッツカールトンのスイートルームで複数の売春婦に変態プレーをさせていた現場を撮影され、ロシア情報機関の操り人形になっていたという報告書を米バズフィードがネット上で公開しました。

報告書は35ページ。ロシアを専門にする元英情報局秘密情報部(MI6)のクリストファー・スティール氏(52)がトランプの反対陣営から依頼され、昨年6月から12月にかけ16回にわたって報告したものです。中でも凄まじいのは昨年6月20日付の報告書です。

それによると、トランプはオバマ大統領夫妻が泊まったこともあるモスクワのリッツカールトンのスイートルームに複数の売春婦を呼んで自分の目の前で小便をかけ合う「変態プレー(黄金シャワー・ショー)」をさせて楽しんでいたそうです。

このホテルはロシア連邦保安局(FSB)のコントロール下にあり、プレーの一部始終が隠しカメラとマイクで記録されていました。ロシア情報機関はプーチン大統領のお墨付きを受け、少なくとも5年間にわたってトランプを脅したりすかしたりしてきたと記されています。

ロシアでの不動産売買で便宜

情報機関が「アセット(情報提供者など利用できる人物)」をつくるとき、性倒錯などの弱みを押さえたあとケース・オフィサー(現場担当官)が接触し、運用を始めます。ケース・オフィサーはアセットの利用価値が大きくなるよう協力を惜しみません。

トランプの場合はモスクワやサンクトペテルブルクなどでの不動産売買で便宜提供の申し出を受けたが、最終的には断っていたと報告書は記しています。しかし、トランプとその側近は米大統領選で民主党のヒラリー・クリントン候補を含むライバル候補の情報を定期的に受け取っていたそうです。

トランプは2012年、一時、米大統領選への出馬を検討しますが、取りやめます。そして16年の米大統領選ではダークホースながら共和党候補指名争いを制し、本選では大方の予想を裏切って民主党のヒラリー・クリントン候補を破ります。

選挙中、プーチンの命令でロシア情報機関によってハッキングされた民主党サイトの電子メールが暴露されます。トランプはヒラリーを攻撃するため、「ロシアが行方の分からないヒラリーの電子メール3万通を発見することを望んでいる」とまで呼びかけました。トランプのプーチン贔屓は露骨です。

ロシア情報機関が民主党陣営の電子メールをハッキングしていたとしてオバマ政権はロシアの外交官35人を国外追放、一方、プーチンが報復を見送ったことについて、トランプは「プーチンの対応は偉大だ。私は常にプーチンが非常にスマートであることを知っている!」とツイートしました。

米国の次期大統領が現職大統領の対抗措置をこれほど馬鹿にして、ロシアの大統領を称えてみせたのは前代未聞のことです。トランプが任命した重要閣僚には極端にロシア寄りの人が少なくありません。

姿をくらました元MI6

ことの発端は米CNNの報道でした。

米共和党のジョン・マケイン上院議員が昨年12月9日、ロシア情報機関がトランプの弱みを握っているというこの報告書のコピーを米連邦捜査局(FBI)のジェームズ・コミー長官に渡したと報じました。そしてバズフィードが報告書の全文をネット上で公開したのです。

英メディアの報道をまとめると、カギを握る元MI6のスティールはCNNの報道後、ロンドン西部の150万ポンドもする豪邸から姿を消しました。近所の人に飼い猫を預けていったそうです。報告書の真偽が分からないことから、CNNや、それを後追いしたバズフィードや英BBC放送を「軽率だ」と批判する声もあります。

当のトランプはツイッターで「嘘のニュースだ。完全なる政治的な魔女狩りだ」と激怒しています。ニューヨークのトランプタワーで11日、300人以上の報道陣を集めた記者会見では、質問しようとするCNNの記者を「あなたのところは偽のニュースだ」と遮り、激しくやり合う一幕がありました。

「MI6は生涯、現役」

スティールは1986年、英名門のケンブリッジ大学学生弁論組織ケンブリッジ・ユニオンの会長に選ばれています。大学卒業後、表向きは英外務省に、実際はMI6に就職しました。90年に在モスクワ英国大使館の二等書記官、98年には在パリ英国大使館の一等書記官として赴任し、2003年から英外務省で勤務していました。

09年にはMI6の同僚と一緒にロンドンで情報コンサルタント会社オービス・ビジネス・インテリジェンスを設立。国際サッカー連盟(FIFA)の汚職事件でFBIの捜査に協力し、100万ポンド以上の報酬を得ます。オービス社の利益は15年に40万ポンド、16年には62万ポンドを超えました。

スティールがまとめた報告書は依頼者であるトランプの反対陣営以外にMI6にも渡され、元在モスクワ英国大使を通じて米国の政治家に渡されたと報じられています。政治家はマケイン上院議員を指しているようです。余裕を見せているのはスパイの巣窟、ロンドンのロシア大使館です。

「クリストファー・スティールのストーリー、MI6に引退の2文字はない。報告書はロシアと米大統領の両方を貶めている」

1月下旬に訪米し、トランプと会談する予定のメイ英首相を陥れるのがロシア大使館のツイートの狙いだと思います。このニュースの真偽は最後まで分からないでしょう。

欧米の自由と民主主義への懐疑主義をまきちらし、オランダ総選挙、フランス大統領選、ドイツ総選挙で反EU勢力を拡大させ、EUを解体に追い込むのがプーチンの目論見だからです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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