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住民が戻らない自治体で、どんな商売が成り立つの?

木野龍逸フリーランスライター

福島民報に、以下のような記事が掲載されていました。

商圏戻らず経営難 小売業に支援薄く 復興を問う▼事業展開に壁(1)

2016年10月15日

「住民が戻ってこないと小売業は成り立たない。しかし、赤字でもガスの供給を続けなければ住民は戻ってこない」

楢葉町のガス会社ナラハプロパン社長の猪狩昌一(42)は、東京電力福島第一原発事故による避難指示が解除された町で小売業を再建する難しさとライフラインを守る使命感との間で苦悩している。

出典:福島民報

記事では、事故前からの事業者とは別に、仮設住宅にガスを供給していた地域外の大手業者との競合も生まれているために、より状況が厳しいとも書いています。

でも、と思います。

楢葉の帰還率は、解除後1年で8%程度といわれています。また、今後も住民の過半数が作業員関係になることを考えると(楢葉町の復興計画では、帰還住民より作業員のほうが多くなると予想)、ほぼ独身者になりそうです。だとすると、通常の家庭のように家でのエネルギー消費が大きくはならないと思われます。ガス使用量も減るでしょうし、こういうインフラ関係は商売にはならないのではないでしょうか。

などといういうことは、最初から見えていたのではないかと思われます。

加えて、解除後に戻るのは高齢者が中心です。そうなると、5年後、10年後はどういう人口構成になるのでしょうか。

除染の終了とともに、作業員は減っていくはずです。それこそ自治体の人口は急激に減って、人のいない自治体になるかもしれません。そもそも若者がいない中で、どのように財政を維持していくのかも見えません。

解除後、補助金によって商業を誘致する動きもあるようですが、いつまで補助金で維持できるのかわかりません。事故前の人口が戻る見通しは、どの自治体ももっていません。

このような、極めて特殊(ある意味では歪)な形の自治体を、従来と同じ枠組みで維持しようとしても、ムリなのは自明です。このような状況で、地域の復旧を住民の自助努力に押しつけるのは、国も含めた行政の無責任でしかないと思うです。

記事では東電の責任とも書いていますが、避難指示を解除した時点で、国はその地域の安全は確保され問題はないという立場をとっています。住んでもいいという国のお墨付きが出たような中で、東電に賠償を求め続けるのは難しのではないでしょうか。

避難指示を解除せず、一方では特例宿泊などの形で居住を認め、避難先から通いながら長期で復旧を目指すという形も考えられたはずです、国は避難指示解除の際、戻りたいひとがいるから解除するといいますが、現在の避難指示に法的拘束力はないため、戻りたければ自由に戻れるのですから。

じゃあどうするかっていうと、問題解決はかなり困難です。特殊な住民構成に合わせた行政サービス、商業の形を、イチから作っていくしかないようにも思います。

いずれにせよ、元からやっていた人たちに頑張ってくれっていうのは、ムチャぶりでしかないと思います。

フリーランスライター

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況等を中心に取材中。ニコニコチャンネルなどでメルマガ配信。連載記事「不思議な裁判官人事」で「PEP(政策起業家プラットフォーム)ジャーナリズム大賞2022 特別賞」受賞。著作に「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)他。

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