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州法で練習内容と時間を制限 米国学校運動部1

谷口輝世子スポーツライター
アメリカンフットボール部は米国の学校運動部で人気ある種目だ

日本の学校内で起きた死亡事故や重いけがのうち、33.9%が部活動中に発生していたことが24日、明らかになった。

文部科学省は24日、学校で起きた児童生徒の突然死や重い後遺症を伴う事故で災害共済給付制度の対象となった558件を調べた結果、部活動中の発生が189件(33・9%)で最多だったと発表した。

出典:共同通信

カリフォルニア州が州法で中学・高校アメリカンフットボール部の練習制限

日本と同様に学校運動部を持つ米国ではどのような安全対策をしているのだろうか。その一例を取りあげる。

今年1月1日、カリフォルニア州では、中学と高校のアメリカンフットボール部の練習を制限する州の法律が施行された。

激しくぶつかり合うフルコンタクトの練習時間を制限するもので「フルコンタクトの練習は1回に90分とし、週に2回まで。シーズンオフはフルコンタクトの練習を禁止する」といった内容だ。

アメリカンフットボールはタックルやブロックといった激しくぶつかり合うプレーを含むため、他のスポーツ種目と比較して脳震盪が発生しやすい。米国のスポーツレガシー研究所によると、アメリカンフットボールで起こる脳震盪のうち約半数が、練習中に発生しているという。フルコンタクトの練習時間を法で制限することで、練習中の脳震盪やその他の大きなケガの発生を防ごうとしている。

アメリカンフットボールの盛んなテキサス州、アラバマ州ではすでに州の高校体育協会の競技規則で、カリフォルニア州と同様にフルコンタクトの練習制限をしている。今後も多くの州で、法律か、高校体育協会の競技規則としてフルコンタクトの練習を制限することになるだろう。

現場は混乱も

現場の指導者には、フルコンタクトの練習が制限されたことで混乱もある。短い練習でより安全で有効なタックルやブロックを教えなければならない。選手の能力をみて先発メンバーを選んでいく作業も短時間で行わなければならない。

しかし、中高生選手の脳震盪を防ぐ目的で作られた練習制限を現場は受け入れるしかない。米国では、スポーツ時の脳震盪の危険がよく知られるようになってきており、「アメリカンフットボール部は脳震盪に配慮していない」というイメージが保護者や生徒に広がると、競技人口の減少につながるからだ。中学や高校アメリカンフットボール部の競技人口が減っていくことは、将来的に競技そのものが衰退していく危険もある。法による練習制限に反対するよりも、短い時間を有効に使えるような練習メニュー作りにエネルギーを注ぐ指導者が多いようだ。

ただし、法や規則でアメリカンフットボール部の練習制限をするだけでは終わらない。練習制限が脳震盪発生件数を減少させるのに本当に有効かどうかの検証もこれから始まる。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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