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頭部への衝撃を避けるために。あえてヘルメットを外して練習をしてみた研究の結果は?

谷口輝世子スポーツライター
(写真:アフロ)

アメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツで、繰り返し頭部への衝撃を受けることによって脳に深刻なダメージを与えるリスクのあることが、一般にも知られるようになった。

アメリカンフットボールはヘルメットやショルダーパッドなどの防具を身につけてプレーする。

ヘルメットは頭蓋骨骨折や頭皮の外傷を防ぐのに役立つ。しかし、液体に浮かんでいる脳が液体内で激しく動くことや、激しく動いて頭蓋骨にぶつかることは、ヘルメットを被ることでは防止できないといわれている。

このため、脳が浮かぶ頭部の液体を増やすことで脳をより安定的に維持するというコンセプトによって、開発されているヘルメットがあるという。次世代ヘルメット、ハイテク技術で脳の損傷防止

一方、昨年の12月10日、ジャーナル・オブ・アスレチック・トレーニングで、アメリカンフットボール選手が、あえてヘルメットを外して練習をすることによって頭部への衝撃を減らすことができるか、という研究の結果が発表された。Early Results of a Helmetless-Tackling Intervention to Decrease Head Impacts in Football Players

米国ニューハンプシャー大学のエリック・スワーツ医師を中心とするグループによる研究だ。スワーツ医師は大学時代にラグビーの競技経験があり、その経験がヘルメットとショルダーパッドを外して練習するという今回の研究に結びついた。

このリサーチは大学アメリカンフットボールの強豪校であるノースハンプシャー大学のアメリカンフットボール部員50人を対象にしたもの。

50人の選手を2つのグループに分け、

ひとつのグループにはシーズン前の練習では週に2回、ヘルメットとショルダーパッドなしでタックルをする。シーズン中は週に1回ヘルメットなしでタックルをする練習を続けた。練習時間は5分。ただヘルメットを外して練習をしたのではなく、練習内容は研究者たちが細心の注意を払い決めたようだ。

もうひとつのグループはこれまで通り、ヘルメットを被り、ショルダーパッドをつけてタックル練習を行った。

2つのグループの選手たちが、シーズンを通じて試合や練習中に頭部に受ける衝撃にちがいがあるかどうかを調べた。頭部への衝撃はヘルメットにつけたセンサーによって計測した。

シーズン序盤は、2つのグループに差異は見られなかったが、練習や試合をこなすにつれて、ヘルメットを外してタックル練習をしたグループのほうが、頭部に衝撃を受けることが少なくなっていったという。

シーズン終了時点ではヘルメットなしでタックル練習をしたグループは、通常の練習をしたグループに比べて頭部への衝撃を受けた回数が30%少なかった。

選手たちがヘルメットを外してタックル練習することによって、頭をぶつけることをなく、もしくは頭をぶつけることを減らしてタックルする技術を身につけることができたのだろうと研究者たちは考えている。

ヘルメットを被ることでは脳震盪を防ぐことはできないとされている。しかし、若い選手たちは、ヘルメットや防具をつけている安心感から頭部への衝撃を避けるプレースタイルを学び損ねているのかもしれない。

これまでにも、現場の指導者たちには、頭に衝撃を受けにくいテクニックや身体の使い方をマスターする重要性を経験的に知っている。

今回、科学的な調査によって得られたひとつの結果はケガや深刻なダメージを防ぐための大きなヒントになっていくのではないだろうか。

スワーツ医師らの研究グループは強豪大学のアメリカンフットボール部というレベルの選手たちを1シーズンの間、研究したものに過ぎないとし、さらに研究が必要であることを強調している。

ニューヨークタイムズ紙1月6日付の電子版によると、ニューハンプシャーの高校アメリカンフットボール選手を対象とした研究も開始されており、今年末に発表できる見通しだそうだ。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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