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2度のトミー・ジョン手術からメジャーリーグに復活。41歳右腕、ジョー・ネイサンに聞く。

谷口輝世子スポーツライター
タイガース時代のジョー・ネイサン(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

ツインズ、レンジャーズなどのクローザーとして活躍し、歴代8位の通算377セーブを挙げているジョー・ネイサンが7月24日にカブスのユニフォームを着て、メジャーリーグに復帰した。(現在はジャイアンツに在籍している)

ネイサンがタイガースでプレーしていた2015年4月のこと。右ひじの張りを訴えて故障者リストに入っていたネイサンは、マイナーでリハビリ登板をした。そこで、わずか数球を投げただけで、投げられないとマウンドを降りたのだ。

間もなくネイサンがトミー・ジョン手術(側副靭帯再建手術)を受けるという発表があった。その時、ネイサンは「メジャーリーグのピッチャーとして戻ってくる」と自分に言い聞かせるように力強く話したのだ。

しかし、私は、ピークを過ぎかかっているネイサンの球威が戻ることは疑わしいと感じた。2010年目に続いて2度目のトミー・ジョン手術であること。その時点で40歳であったこと。このまま引退に追い込まれるのではないかと考えていた。

私の予想は覆された。

ネイサンは有言実行し、2016年5月にカブスと契約を結び、7月にメジャーの舞台に帰ってきた。

カブスは8月1日からイチローのいるマーリンズとの3連戦があり、この期間にカブスの本拠地リグレーフィールドのクラブハウスでネイサンに話を聞いた。

2度目のトミー・ジョン手術、41歳という年齢でも、メジャー復帰できたのはなぜなのか。

「難しいと思うことはたくさんあった。勤勉であることや頑張ることは簡単なこと。自分の身体からの声をよく聞き、辛抱強くなければならない。どんな状況なら、もう少し頑張ったほうがよいのか、どんな状況なら、抑えなければいけないのか。以前に手術を経験していること、知識があったことが大きな助けになったと思う。自分の身体は自分以外の人には分からないのだから」

ネイサンは、2度目、41歳というマイナス要素を、経験や辛抱強さというプラスに転じさせていた。

1年間のリハビリ中、メジャーリーグの投手として復帰するという信念が揺らぐことはなかったのだろうか。

「どんな手術をする時でも、100%、復帰できる自信があるということはないだろうね。それを疑う気持ちは常にあるし、復帰できないリスクもある。手術に自分の身体がうまく応えてくれるかどうかは、分からないところもある」

ネイサンにも不安はあった。しかし、どの方向に気持ちと身体を向けていくかは分かっていたのだ。

「でも、そんなことばかりを考えてはいられない。前向きにスケジュールとともにリハビリしていく。辛抱強さがカギなんだ。特にリハビリの前半は。自分は十分にやっているんだろうかと考えてしまいやすいからね。後半になると少し変わる。自分で自分を励ましながらトレーニングしていくんだ」

リハビリの前半は慎重に進めていたネイサンだが、自らの身体からのメッセージを受け取り、これはいけると、後半はスピードを上げてた。

「医者からは復帰までに18カ月と言われたんだけど、僕は今シーズン中に復帰したかった。少なくともメジャーリーグのチームに僕の準備はできているということを見せる必要があった。今年のことだけでなく、来シーズンのことも考えてのことだ」。

ところが、である。クラブハウスで、来季への意欲までを聞いたわずか数日後に、ネイサンはカブスからリリースされた。

どこかの球団と契約できるのだろうか。できないかもしれない。私はまた悪い予想をしたのだが、これも外れた。ネイサンはすぐさま、99年に初めてメジャー昇格を果たした球団である古巣ジャイアンツとマイナー契約を結んだ。

そして、メジャーのロースター枠が拡大する9月に入ると、メジャーリーグのピッチャーとして蘇った。ジャイアンツでは9月20日時点で5試合に登板。14日のダイヤモンドバックス戦では延長11回に6番目の投手として登板し、勝ち投手にもなった。

9月10日のサンフランシスコクロニコル紙は、ネイサンの息子コール君が「60歳までプレーして欲しい」と話していると伝えた。この記事を書いた記者も、ネイサンも、コール君も100%ジョークのつもりだっただろう。

けれども、私は、2015年4月から2度もネイサンに関する予想を外してしまっている。コール君の言葉に、ほんの少しだけ心の準備をしておこうかとも思っている。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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