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イチローと米野球殿堂入りした外国出身選手たち。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

今年もまもなく米野球殿堂入り投票の結果が発表される。

今年の殿堂入り投票では、初めて投票用紙に名前が掲載された選手のうち、外国出身者が少なくなかった。

イバン・ロドリゲス(プエルトリコ)

マニー・ラミレス(ドミニカ共和国)

ブラディミール・ゲレーロ(ドミニカ共和国)

ホルヘ・ポサダ(プエルトリコ)

マグリオ・オルドネス(ベネズエラ)

エドガー・レンテリア(コロンビア)

といった面々。このほかにもメルビン・モラ(ベネズエラ)、カルロス・ギエン(ベネズエラ)、オーランド・カブレラ(コロンビア)がいる。

米殿堂入り投票は1936年から始まっているが、外国出身の殿堂入り選手はこれまでに10人しかいない。

1973年選出 ロベルト・クレメンテ(外野手・プエルトリコ)

1983年選出 フアン・マリシャル(投手・ドミニカ共和国)

1984年選出 ルイス・アパリシオ(内野手・ベネズエラ)

1991年選出 ロッド・カルー(内野手・パナマ)

1991年選出 ファーガソン・ジェンキンズ(投手・カナダ)

1999年選出 オーランド・セペダ(内野手・プエルトリコ)

2000年選出 トニー・ペレス(内野手・キューバ)

2011年選出 ロベルト・アロマー(内野手・プエルトリコ)

2011年選出 バート・ブライレベン(投手・オランダ生まれ米国育ち)

2015年選出 ペドロ・マルチネス(投手・ドミニカ共和国)。

プエルトリコ出身者として最初に選ばれたロベルト・クレメンテ、ドミニカ共和国初の殿堂入り選手、ホアン・マリシャル、ベネズエラ初のルイス・アパリシオには共通点がある。

プエルトリコから初めてメジャーリーガーが誕生したのは1942年のこと。1942年から2016年までに257人がメジャーリーガーになっているが、ロベルト・クレメンテはプエルトリコ出身者としては10人目のメジャーリーガーだった。野手では7人目だ。

ドミニカ共和国の初めてメジャーリーガーは1956年に誕生。1956年から2016年までに669人のメジャーリーガーを産み出してきたが、マリシャルはドミニカ共和国4人目のメジャーリーガーで、投手としては2人目だった。

ベネズエラ初のメジャーリーガーは1939年に誕生。それから2016年までに358選手がメジャーデビューしている。ルイス・アパリシオはベネズエラ出身者として6人目の選手で、野手では4人目だった。

いずれも、母国からメジャーリーグ入りする道筋がついて間もなくメジャーリーガーとなった選手が殿堂入りを果たしたと言ってよいだろう。

プエルトリコの殿堂入りは3人。600人以上のメジャーリーガーを送り出しているドミニカ共和国は2人だが、いずれも投手で、まだ、野手は殿堂入りしていない。ベネズエラは現時点ではアパリシオ1人だけだ。

そして、イチローのことを想った。

昨年、メジャー通算3000本安打を達成したイチローは、恐らく米野球殿堂入りできるだろうと予想されている。

野茂が1995年にメジャー入りを果たして、2000年までに9人の投手がメジャーリーガーになった。そして、2001年にイチローと新庄が日本人野手としては初めてメジャーリーグデビュー。日本球界からメジャーリーグ入りが現実的なものとなって、それほど時間が経っていないときにイチローはメジャーにやってきたのだ。

クレメンテ、マリシャル、アパリシオと契約したメジャーリーグ球団は、スカウトがよほど目利きでだったのだろう。

メジャーリーグ球団は外国からの選手供給ルートを新しく開拓するにあたって、手探りで、慎重でもあったはずだ。前例が少ない時には、過去の選手獲得経験から比較したり、分析したりすることはできない。そのためにスカウトは「果たしてメジャーリーグで通常するのか」という厳しい目で彼らを見ていたに違いない。

クレメンテ、マリシャル、アパリシオらは、その評価をクリアして契約を結び、メジャーに昇格後は並のメジャーリーガーをはるかに凌ぐ力を持ち合わせていた。だからこその殿堂入りだったのではないか。

イチローも日本人初めての野手で、前例もなく、比較材料もないことから「メジャーで通用するのか」という疑問を持たれていた。それを払拭するどころか、「通用するレベル」を遙かに上回っていたことを証明し、今も続けている。

冒頭で述べたように今年の殿堂入りの投票用紙には、ドミニカ共和国出身選手やベネズエラ出身選手の名前がある。彼らはメジャーリーグが80年代後半、90年代にラテンアメリカから大量に獲得し始めた時期に、その中から抜きんでた選手たちだ。ドミニカ共和国やベネズエラは、これからの10-20年で殿堂入り選手を増やしていくはずだ。これは、日本選手とメジャーリーグの状況にはあてはまらないだろうが。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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