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米大リーグが「投げない敬遠」「守備位置にマーク禁止」など、今季のルール変更を発表

谷口輝世子スポーツライター
メジャーリーグのマンフレッドコミッショナー(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

米大リーグと大リーグ選手会は2日(日本時間3日)、今シーズンの規則として「申告制」の敬遠四球を導入するとを発表した。

申告制の敬遠四球は、守備側の監督が球審に敬遠四球を伝えると、打者は一塁へ出塁できる。投手が4球を投げなくても敬遠四球となる。

大リーグのマンフレッドコミッショナーは、試合をスピードアップさせる方針を打ち出しており、「投げない敬遠」の導入で試合時間短縮を図りたいからだ。

試合時間の短縮を目指す規則は他にも盛り込まれている。

監督が審判にビデオ判定を求めるときは、30秒以内に決断すること。

監督がジャッジに異議を唱えてビデオ判定を求める「チャレンジ」は、判定が覆ったときには、再度、ビデオ判定を求める権利を得られる。このため、各チームではビデオ判定を求めたほうがよいかを、映像を見て判断するスタッフを抱えている。判定が覆りそうならば、監督にゴーサインを出すのだ。監督がスタッフからの情報を得るため、ビデオ判定の要求までに時間がかかることがあった。

今季の規則では、ビデオによって判断を下すニューヨークのリプレー・オペレーション・センターに対しても、例外を除いては2分以内に判定することを求めている。リプレー・オベレーション・センターで判断を下す人には、胃の痛むような仕事になるかもしれないが、2分かかっても判定できないプレーは、最初に審判が下したジャッジを正しいと見なすのがいいかもしれないと、筆者は思う。

2014年に導入された「チャレンジ」制度は、動画がインターネットやSNSで拡散していく時代に必要なものになっているのではないかと感じていた。しかし、今回の発表内容を見て、試合時間短縮のために、細かく制限するのなら、ビデオ判定廃止の検討もアリなのかもしれないとも思う。

時間短縮とは別に、もうひとつ特徴的規則があった。それがタイトルにつけた「守備のポジショニングのためにグラウンドに目印をつけることの禁止」だ。

守備のポジショニングの参考とするために、フィールド上に何かを使ってマークしてはいけない、というものだ。

3月2日付けのUSATODAY紙では、昨年5月にドジャースが敵地のニューヨークでメッツと試合をしたときに、ドジャース側から外野にマークをつけたいという要求があり、メッツのアルダーソンゼネラルマネジャーが、これを拒否するという「事件」があったことを伝えている。

同紙によると、ドジャースは守備のポジショニングにレーザーやGPSデバイスを活用、ドジャースタジアムの外野には守備の起点となる場所にマークをつけていたという。ドジャースはメッツの本拠地以外の敵地でも、印をつけたいと希望し、それを許可したチームもあったそうだ。ドジャースはレーザーやGPSデバイスなどの機器は試合時には使っていないとしているが。

打者によって守備位置を変えるシフトはメジャーではすっかり定着した。データの分析が進み、より細かく傾向を把握できるようにもなっている。しかし、この規則は、フィールド内にスプレー状のペイントやチョーク、何らかの機器などで印をつけることの禁止を徹底するものだ。

ビデオ判定の短縮など、決まったからにはルールには従わなければいけない。申告制の敬遠四球など、競技規則から最大限に利益を引き出すのが選手、首脳陣、フロントの仕事だ。時間短縮で若いファンを増やしたいと願うマンフレッドコミッショナーの戦略は、吉と出るのか、凶と出るのか。

ニューヨークタイムズ紙は2日、野球の試合時間短縮についての特集記事を掲載。タイラー・ケプナー記者が「全米中の若いファンにアピールしたいのならば、毎年、少なくともワールドシリーズの1試合は彼ら(子供たち)が見ることのできるよう、彼らのベッドタイムの前に行うことだ」と書いている。この意見には筆者も同意。ワールドシリーズは、テレビの視聴率が最も高くなる時間帯を選んで、米国東部時間の午後8時ごろから始まる。翌朝、登校しなければいけない子供たちにとっては、試合の中盤までしか中継を見ることができない。子供たちに魅力ある野球は、スピードアップだけではないはずだ。

余談ではあるが、ルール変更を受けて、デトロイトフリープレース紙が、新しいトリビアクイズの問いの提案と答えを示している。

「メジャーリーグのレギュラーシーズンで最後に4球投げて敬遠四球を与えた投手は誰か」

「答えはタイガースのジャスティン・バーランダー。10月2日のブレーブス戦で、打者のニック・マーケイキスに対して」だそうである。サイヤング賞のジャスティン・バーランダーが、外野守備の名手ではあるが、屈指の強打者とはいえないマーケイキスに4球ボールを投げて敬遠したというのは、いかにもトリビアらしい難易度といえるかもしれない。

記事を掲載後、ツイッターで情報をご提供いただいた。米野球殿堂博物館は、ナショナルズのレイナルド・ロペス投手が、マーリンズの打者ジャンカルロ・スタントンに対して4球を投げて敬遠四球を与えたのが、現行ルールの最後の打者だとツイートしている。

ブレーブスータイガース戦、ナショナルズーマーリンズ戦はともに10月2日に行われ、それぞれ米東部時間の午後3時10分開始と午後3時5分開始。マーケイキスへの敬遠四球は六回、スタントンへの敬遠四球は八回。試合経過と試合時間を見る限り、レイナルド・ロペスがスタントンに与えた敬遠四球が、「最後の4球敬遠」である可能性が高い。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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