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今年のエミー賞の本命は「ゲイ過ぎる」実録ドラマ

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
恋するリベラーチェ 11月1日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

去る7月18日に発表された第65回エミー賞候補作(授賞式は現地時間9月22日)で、なんと、作品賞ほか合計14部門で15ノミネートという「タイタニック」並みの快挙を成し遂げたのが、HBO制作のTVムービー「恋するリベラーチェ(原題:BEHIND THE CANDELABRA)」だ。この作品、ここに至るまでのプロセスが凄い。。。

「ゲイ過ぎる」という理由で制作が頓挫

まず、オスカー監督、スティーヴン・ソダーバーグの最新作として企画が発表されたのが2008年のこと。しかし、出資する会社もプロデューサーも皆無だった。なぜなら、内容が「ゲイ過ぎる」から。ソダーバーグが当時を振り返って「「ブロークバック・マウンテン」が公開された後にも関わらず、街のすべての映画人にそっぽを向かれたよ」と言うくらい、業界の反応は冷たかった。結局、作品は劇場公開を諦め、HBO制作のTVムービーとしてどうにかスタートを切るのだが、2010年になって、主演のマイケル・ダグラスに末期の咽頭がんが見つかり、さらに撮入が遅延。その後、ダグラスががんを克服するのを待って、今度こそクランクインとなる。いやはや。では、ハリウッドがいかに小心でコンサバな業界かを露呈した「ゲイ過ぎる」というその中身とは?

マイケル・ダグラスとマット・デイモンのラブシーン!!

主人公は、1950~70年代に"世界が愛したピアニスト" と称された実在のエンターテイナー、リベラーチェ。映画は、生涯ゲイであることを隠し続けたリベラーチェが、晩年、友人に紹介されたハンサムな青年、スコット・ソーソンと恋に落ち、亡くなるまでの数年間を共に過ごした日々に密着して行く。身寄りのないスコットが"斡旋人"を介してリベラーチェと出会い、速攻で肉体関係を持ち、あくまで内輪のパートナーシップを形成していく過程では、確かに、若干客席が凍り付くシーンも登場する。マイケル・ダグラスとソーソンを演じるマット・デイモンのラブシーンなんて、メジャー映画ではあり得ないだろう。しかし、2人共実に魅力的だ。俳優としてここ数年の白眉と言ってもいい。かつてセックスシンボルとして名を馳せたダグラスが、独特のしなを作って同性の恋人に媚びを売る老人になり切れば、初心で誠実な青年がショービズ界の毒に取り込まれていく様子を、こちらも元青春スターのデイモンが生来の無骨さで表現。W候補となったエミー賞TVムービー部門の主演男優賞は、恐らく、病床で役作りに励んだというダグラスに行くだろうが、リスキーな役を終始"受けの演技"でこなしたデイモンの勇気も、讃えられていいと思う。

日本を含め海外では堂々の劇場公開

アメリカの芸能界でメジャーなスターが偏見を恐れてゲイを公表できない状況は、残念ながら今も変わらない。だが、ソダーバーグはそんな社会的なメッセージより、ど派手な衣装とステージ演出で観客を虜にしたリベラーチェの希代のエンターテイナーぶりと、それ以上に怪しげで、作りもの感満載の私生活を画面に再現することに固執。結果、「恋するリベラーチェ」は知られざる"ハリウッド裏面史映画"としての価値をゲットし、幸運なことに、日本を含めて海外では堂々と劇場映画として公開される運びとなった。コレを見識のある日本の映画マニアに、いち早くお薦めしたい。

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映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。TV、ラジオに映画コメンテーターとして出演。

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