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「低賃金、ロボットのように働かせられる従業員」 -FTのアマゾン記事が話題に

小林恭子ジャーナリスト
Rugeleyのアマゾン倉庫で働くスタッフ(FTサイトより)

英フィナンシャル・タイムズの2月9-10日号に掲載された、「アマゾンのこん包を解く」が、ウェブサイト上で多くのコメントを集めている(ネット上の購読は登録制で、場合によっては課金購読となることにご注意)。

本文の前には、「オンラインの巨人が英国で数千人を雇用した。それなのに、なぜ従業員の一部は幸せではないのか?」と書かれている。

イングランド地方中西部スタッフォードシャーの元炭鉱の町Rugeleyに、1年半前にアマゾンの巨大倉庫が建設された。地元の雇用に大いに役立つとして当初は大歓迎されたものの、実際には悲喜こもごもの展開となっている、と記事は書く。

スタッフの仕事は8時間シフト制で、休み時間は30分。英国の最低賃金は時給6・19ポンド(約900円)だが、基礎的な作業についてはこれよりほんの少し上の6・20ポンドを一律に払っているという。ほとんどがアマゾンが使う人材派遣会社からの雇用という形をとり、病気で休んだ後で、首を切られたスタッフもいる。正社員としての雇用までの道は険しいという。

仕事の1つは、大きな倉庫に山ほどある本の中から、顧客が欲しい1冊を探し出して運ぶこと。この職種の人は「ピッカーズ」と呼ばれる(ピック=取り出す)。台車を押して、顧客の注文に応じて、本の棚まで行き、持って来る。

アマゾンには、この作業を最も効率的に進めるための歩き方を計測するソフトウェアがあるそうだ。ピッカーズたちはそれぞれ衛星誘導システムがついた機器を手に持ち、この機器がどの棚にどのようにして行けば最適かを教えてくれる。

忙しい日には1日に7マイル(約11キロメートル)から15マイルも歩く場合もあるそうで、アマゾンのマネージャーの一人は、「君はいわばロボットのようなものだ、人間の形をしているけれどね」、「ヒューマン・オートメーションだ」という。

この町のアマゾンの倉庫には、毎日、「現場歩き」を行うマネージャーたちがいる。マネージャーの一人マット・ピーダーセン氏は、FTの取材者に倉庫を見せながら、「今日はどんな理由で作業が停止したのか、どうすれば改善できるのかをスタッフに聞く」という。

このマネージャーのほかにも、ラップトップが乗っている、車輪付きデスクを押しながら、現場を監視している人もいるという。どこで作業が遅れているのかをチェックしている

1990年に炭鉱が閉鎖されたRugeleyでは、その後十分な職がない状態が長く続いた。アマゾンの倉庫建設によっ、地元に根付いた、長期的な雇用が育つと期待されたが、これまでに200人ほどが正社員化し、残りの大部分がテンポラリーであることに、地元の政治家は不満を持っているという。

記事の中には、前向きな話として、正規雇用となって週に220ポンドをもらう人の例や、アマゾンだけが臨時採用体制をとっているのではなく、英国全体で、正社員ではなく臨時職員として人を雇用する企業が2008年以降特に増えている、とする説明がある。また、「仕事があるだけもいいではないか」という声や、「終身雇用の世界は終わった」という地元不動産会社の運営者のコメントも紹介している。

この記事を読んで、スタッフの働きぶりには驚かざるを得なかった。「人間のロボット化」の言葉も強く印象に残った。

しかし、記事は「アマゾン=悪者」という見方が強く、一方的な感じもした。「なるべく安い本をアマゾンで買って(米英ではアマゾンで買うほうが通常の書店で買うよりもかなり安い)、即、届けてもらいたい」という消費者側の意向が、低賃金+重労働の職環境を作り上げている面もあるだろう。

この記事へのコメントをウェブサイトで見ると、かなりのコメントが集まっていた。批判的なものが多い。

いくつかの論点を追うと

*バランスに欠けている

*低賃金+重労働+ロボット化は、アマゾンだけではない。低い価格でサービスを提供する企業は、どこでも同じようなことになるのではないか

*実態が知られ、これに対して抗議の声をあげることで、働く環境が変わるのではないか

*ドイツでは違う状況になっている(職場環境の改善があった)

*仕事があるだけもよいと思う

*米国のLehigh Valley (Pennsylvania)でも、2011年の夏、問題が発生した。

など。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊は中公新書ラクレ「英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱」。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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