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「平和を作る」写真展、サラエボで開催 ―平和組織IPBの日本へのメッセージとは

小林恭子ジャーナリスト
サラエボで開催中の写真展から ー原爆ドームの外の子どもたち

オーストリア・ハンガリー帝国の次期皇帝が暗殺された「サラエボ事件」から28日で100年となった。第1次大戦勃発のきっかけとなった歴史的な日を記念するため、市内では様々な記念イベントが開催された。戦争の引き金となったことで、逆にこの日を平和のための日として位置づける流れがある。

この流れを汲んだのが、非政府組織の平和団体「国際平和ビューロー」(IPB、本部スイス・ジュネーブ)による写真展だ。IPBは1891年に発足。1910年には平和への活動を評価され、ノーベル平和賞を授与された。

1914年6月、フェルディナント大公夫妻がボスニア系セルビア人青年ガブリロ・プリンツィプが発射したピストルの弾を受けたのは、市内にかかるラテン橋の上だった。

この橋から歩いて数分の川べりに、戦争の悲惨さ、反戦運動、戦死した人を悼む場面などの報道写真のスタンドが一列に並ぶ。「平和を作る」と題された写真展だ。写真家グループ「マグナムフォト」のアレックス・ウッドがキュレーターとなり、ドイツの雑誌「フォーカス」のカリン・アネサーが編集した。

思わず立ち止まる人たち
思わず立ち止まる人たち

今回の写真展は2010年にジュネーブで始まり、その後、ストックホルム、仏ストラスバーグでも開催された。今後も世界の各都市で開催予定だ。

どの写真にも簡単な説明がつき、思わず立ち止まってじっくり見たくなる。私が訪れたときも、鑑賞する人は絶えなかった。

日本の写真もある。広島の原爆ドームの前で、子供たちが立ち止まっている様子だ。撮影者には「ススム・トシユキ」と書かれていた。

反戦家の姿

ブライアン・ホーの反戦テントに雪が降った
ブライアン・ホーの反戦テントに雪が降った

個人的にはっとしたのは、ポスターや看板の表面が雪でうっすらと覆われ、下の部分が雪にうずまっている写真だった。一瞬、少々地味な写真に見えた。ほかの報道写真が一発でその意味が分かるようなインパクトの強いものだったので、なおさらだった。

しかし、自分はこの写真の意味を知っている、ポスターや看板の後ろにいる人を知っていると思ったとき、どきんとした。

近寄って説明を見ると、やはりそうだった。英国議会の真向かいの広場にテントを張り、11年間反戦運動を続けていた、ブライアン・ホーの「反戦テント」の写真だった。ホーは2011年、病気で亡くなった。

生前のホーの日本人へのメッセージを聞きたい方は、クリックしてみていただきたい。

事務局長の日本へのメッセージ

IPB事務局長コリン・アーチャー
IPB事務局長コリン・アーチャー

28日午後、展示場所でIPBの事務局長コリン・アーチャーの姿を見た。アーチャーは英国出身で、ジュネーブには25年住んでいるという。

以下は一問一答だ。

―英国内では核兵器廃止運動がもう何十年も続いている。それでもまだ英国は核兵器を廃止していない。戦争反対、核兵器反対という運動を続けていると、むなしくなったりはしないのだろうか。

アーチャー:必ずしもそうは思わない。現在核兵器を持っている9カ国の中で、核兵器廃止を決定する確率が最も高いのは英国ではないかと思っている。

いくつかの理由がある。まず、経済危機のために、高額な核兵器の維持費が払えないという面がある。そこで、通常兵器のほうに投資しようという動きが出てくる。

以前に米国は英国にこう聞いてきた。「核兵器保有国でありたいのか、実際の軍事力を持つ国になりたいのか。2つに1つだぞ」と。私が見たところでは、英国は実質的な軍事力を持つ国であるほうを望んでいる。

2つ目の理由はスコットランドの独立問題だ。9月に住民投票がある。もし独立する方が半数以上となれば〔そうなる可能性は低いとは思うが〕、スコットランド与党は核防衛体制「トラインデント」をやめると言っている。

3つ目として、来年英国では総選挙がある。与党保守党が現在のように自由民主党と連立政権となるのか、あるいは野党の労働党と交渉するのかどうかは分からないが、核兵器廃止問題が浮上する可能性がある(自民党や労働党は核兵器に否定的見解を示している)。

こうした要素が影響し、「いっそ、やめてしまおう」とならないとも限らない。

―訪日の予定は?

来年、行ければよいと思っているが。日本の反核運動の支援活動をすることになるだろう。国際会議に出るために訪日する場合、世界中の活動家と情報を交換できるのも楽しみだ。

ー日本へのメッセージをお願いしたい。

アジア圏の緊張に懸念を持っている。安倍首相は憲法第9条を弱めるような法案作りを進めているように見える。大きな懸念だ。

しかし、憲法上の変更や政府の政策だけが心配なのではない。日本の人には中国人と友人関係になるように動いて欲しい。韓国人とも友人関係を作って欲しい。そのためには、過去の痛ましいことに向かい合うことが必要になるだろう。日本がアジアを植民地化していた第2次大戦は終わったが、未解決の問題がまだたくさんある。日本の政治家や社会的な指導者が率先して行動を起こすべきだ。

世界中の人が、東アジアの状況がもっと前向きなものに変わることを願っている。中国側にも問題があるが、日本はもっと前向きな態度で解決にあたって欲しい。平和の達成には、両方の側に妥協が必要なものだよ。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊は中公新書ラクレ「英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱」。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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