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国会前反戦デモ ー思いは通じるか?

小林恭子ジャーナリスト
10日のデモの様子
10日のデモの様子

安全保障関連法案が来週半ばにも衆院を通過する見込みが出てきたそうだ。

日本に来てから、周囲の声やメディア報道を見ると、どうも反対論が強いらしい。新聞複数紙によると、さまざまな憲法学者が法案が違憲か合憲かについて、それぞれの見方を公表している。こちらも、違憲とみなす学者の方が多いように見える。国民の総意としては、反対が強くなっている・・・と言っていいだろうか。

しかし、「戦争法案」とも呼ばれる、今回の安保法案。「法案反対」という声をあげるだけで成立を阻止できるのだろうか?

自民党と公明党の議員がこの法案に投票して、その数が可決に足るものになったら、通ってしまうだろう。反対派(=野党勢力、ロビー団体など)による、与党票の切り崩し努力というのはどこまで進んでいるのだろう?

そんなことを考えながら、毎週金曜の夜に行われている、国会前の法案反対と原発反対デモの様子を見るために家族と出かけてみた。

10日の午後7時半ごろ、国会議事堂前駅に到着した。出口までの長いエスカレーターと階段を上る。出口に出る前から「戦争反対」のかけ声が聞こえくる。階段を上りながら、その声を聞いていると、涙が出そうになる。

なぜ声を聞くだけで泣きたくなるのかは、自分自身、分からない。人が集まっている熱気がそうさせるのか、エネルギーを感じるからか。国会前で声をあげて反対しなければならないほどの切羽詰まった状況を思うからか。なぜだか「無念」の思いもした。

私が最後に反戦デモに行ったのは2003年だ。当時、英国ではイラク戦争開戦への反対運動が続いていた。100万人単位での反戦デモだけでは結局、戦争を止めることができなかった。その結果、何万人規模で人が命を落としたのである。日本はまだ、戦場に行く可能性があるという段階での話であり、具体的な戦争が始まることへの反対ではない・・・。

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階段を上ると、道を隔てた向かい側に人が集まっている様子が見えた。そこからマイクを通して声が響いてきた。警察官があちこちにいて、その一人が「デモに参加するのでしたら、こちらです」と誘導してくれる。

マイクを持って叫び声をあげ、「戦争反対」を唱える人の周りにたくさんの人が集まっており、強い照明が当たっていた。この中心地の前後に長い人の列ができている。ひとまず、近くに行って、写真を数枚撮る。人はまだそれほど多くなく、何人かはプラカードを持っている。マイクを持った人が「原発反対」と言い出した。このデモは反戦かつ反原発デモでもあるようだ。

参加している人は男女がいて、年齢層は20代から高齢者まで幅広い。

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一緒に来た弟が、携帯で写真や動画を撮っている。国会前デモに来たのは私同様、初めてだ。「自分が投票しても、どうせ政治は変わらない」というのが口癖だが、初めてみた光景を記録しておこうと思ったようだ。

ひとまず、列の最後まで歩いてみると、途中で、「ろくでなし」という歌を安倍首相を批判する替え歌にして歌っている女性がいた。歌い終わると、ひとしきり、拍手が起きた。

向こう側の道路にも別の中心地があって、今度はそちらに向かう。だんだん人が増えてきた。「随分混んできたわね。シールズ(SEALDs(シールズ:Students Emergency Action for Liberal Democracy - s)のせいかしら」、と前を歩いていた女性が話す。シールズとは反戦運動を行っている若者たちのネットワークだ。

向かい側に渡ってみると、やはりプラカードを持ったり、反戦や反原発のかけ声を唱和する人があちこちに並んでいる。「東電の幹部に向けて、刑事訴訟を起こすためのハガキを売っている」という女性たちから、3枚組セットを買い、チラシをもらう。

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若い女性がおにぎりやバナナタルト、ジュースを路上で売っている。「いつから来ているのですか」と聞くと「3年ぐらい前から。雨が降らない限り、毎週来ている」そうだ。他にも、反原発の人は2011年の原発事故が契機となってここに来ているという。

別の反戦集会のチラシや、反原発のチラシをいろいろな人から受け取りながら、先に進んだ。

最初に行った方の通りにたくさん人が集まっているのが見えた。反戦のメッセージを出しているのが、シールズの人のようだ。

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そこでもう一度、道を渡り、元の通りに戻った。シールズの演説者の周りには人が群がり、カメラマンたちがカメラを向けている。

ひとしきり私も写真を撮った後、デモ参加者の列に並んだ。

自分が立っている場所からは姿は見えず、名前を聞き取れなかったのだが、「国会議員」として紹介された人物の演説が、マイクを通して聞こえてきた。野党5党が協力して、与党による強行採決を認めないことを決めました、必要に応じていつでも集まります、というと、大きな拍手が起きる。なぜ今日までそうしていなかったのか?と思ったが、そんなツッコミは余計だろう・・・。「ここまで来ることができたのはシールズのおかげです。議員たちは皆さんの声を聞いています!」と議員は高らかに言った。

すると、シールズの人が言った。「毎回、ここに来てくれている人がいます」。

マイクを取った人は「アイ・アム・ノット・アベです」と言った。元経産官僚の古賀茂明さんに違いない。

もっと聞いていたかったが、弟が「そろそろ帰ろう」という。

駅まで歩いていると、「まったくな。ああいうのをどうしてテレビでそのまま出さないんだろう。政治家たちと今日デモに来た若者たちを徹底的に議論させたらいいのにな」(私は日本のテレビをあまり知らないので、これがすでにやられていることなのかどうか、不明)。

「戦争は絶対に反対だ。人が殺したり、殺されたりするんだ。そんなバカなこと、やっていいわけない」。

日本の国会前デモと英国の反戦デモが重なって見えた。第1次大戦、第2次大戦と勝ち抜いた英国。今では世界の様々な場所に兵士を派遣したり、場合によっては空爆を行うー「独裁者」を倒すためだから、正当化もされる。

英国は軍事力によって、自国の利益を守ることを柱にしてきた国だ。徴兵制は今は採用しておらず、全員が志願兵。場合によっては命を落とす可能性も含めての、国家の仕組みがある。どこか罪深い感じがしてしまうのだがー。

軍隊を持ち、積極的に他国の紛争に干渉する国、英国のことを考えながら、地下鉄の駅に入った。

ちなみに、英議会の正面の真向かいの広場では、かつて、ブライアン・ホーさんという個人が反戦デモを続けていた。頭にはヘルメット、片手にハンドベルを持って、「子供を殺すな!」と叫んでいた。広場にテントを張り、寝泊まりしていたのである。2011年、ホーさんは病気で亡くなったが、その後は仲間たちが交代でデモを続けている。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊は中公新書ラクレ「英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱」。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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