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クルム伊達公子 現役再チャレンジ8年目の選択  

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

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クルム伊達公子が、現役再チャレンジを始めてから、2015年4月でまる7年が経過し、彼女の挑戦は、驚くべきことに8年目に突入した。44歳の彼女自身はもちろん、誰もがこれほど長くテニスを続けているとは想像すらできなかったことだ。

15年オーストラリアンオープンでは、「先が見えない」と初めて涙を見せたクルム伊達だったが、春には、「自分の納得するテニスができるまではやめられない」と現役続行を選択した。

ただ、彼女が選択した道は、現在厳しいものになっている。

昨年の秋から悩まされている右側大転子の滑液包炎は、今も完治せず、その後も、一つの部位をかばうと他に悪影響が出て、右肩や左ひじにも滑液包炎が起こり、さらに、でん部には肉離れも起こしていた。

懸命な体のケアを行う中、ドクターや栄養士に相談して、グルコサミンやフィッシュオイルを摂取するようになった。

「今年に入って、今日調子がいいなと思った日がなかった。もう治らないと思っていたものが、いい方向にころがり始めた」

このように語ったクルム伊達は、08年に現役再チャレンジを始めた思い出の地である岐阜大会「カンガルーカップ」(4月28日~5月3日)に、2年ぶりに出場を果たした。

試合は初戦で敗れたものの、クルム伊達は、ラケットがしっかり振れたことに、今後の光明を見出そうとしたが、試合終盤の数ゲームで右肩が固まってしまった悔しさもにじませた。彼女の体が抱える不安から、8年目に突入した節目で、感慨にふける余裕はなかった。

「今は8シーズン目を考えている暇はないですね。治療して少し良くなることがあっても、コートに入ると硬さがあったり、痛みが抜けきらなかったり、不安もぬぐいきれない。その中で、このままこの状態と付き合っていかないといけないかなと、受け入れないといけないと思ったけど、幸運にも治るかもしれないと思えた二日間だった。今日は試合にもかかわらず動いて、痛みは引くかなということを感じている。

今は、体が第一。今まで以上にいい状態でコートに立たないと、パフォーマンスが落ちる。まずそこに持っていけないと厳しい。けがによって、試合数がこなせないと、当然勝負強さがなくなる。いくら経験があるとはいえ、自分も時間を少しかけて取り戻さないといけない。

これが、(春の)ハードコートシーズンと重なってプレーができなかった。さらに、この先クレー(コートサーフェスが赤土での試合)しかないとうのが、一番痛いとこですけど、これはしょうがないので、その中でやっていくしかない」

ほぼ12年におよぶ空白から、37歳で始めた現役再チャレンジだが、もともとプロテニスプレーヤーにとっては高齢のため、クルム伊達がプレーを続けられる時間は限られていた。彼女自身も、いつもそれを十分すぎるほど認識し、覚悟のプレーを披露してきた。

だから、万全ではない今も、なかなか休む勇気が持てない。

「もちろん(休むことを)考えないわけはないですよ。時間をかけて考えた結果です。それが正しいか正しくないか、それは難しい判断です。もしかしたら、ああしとけばよかったとかは、日々あります。コロンビアなんか行くんじゃなかったとか、やっぱりチャールストンなんか行くんじゃなかったとか、それはあります。それはしょうがない。その時のエントリー時期と、その時の体調と、あまりにも差がある。エントリーと試合が同じ日なら、その時の体調を見て決められますけど、4週間先に自分がどうなっているかわからない。そりぁ、いろいろ後悔したり、よかったと思ったり……」

現役再チャレンジを始めた頃、クルム伊達は、再びランキングが100位以下に落ちて、グランドスラムの本戦に出られなくなった時、または大きなけがをしてしまった時、チャレンジを続けることは難しくなるだろうと自ら予測していた。

現在、クルム伊達のWTAランキングは151位(5月11日付け)で、グランスラムでは予選から戦わなくてならず、けがも複数抱え、彼女自身が危惧していた困難な状況に、今まさに直面している。

それでも、クルム伊達は、現役続行を選択している。

彼女は、自分が納得するテニスが再びできるまでやめられないと語るが、そのテニスとは一体どういうものなのだろうか。

「迷いのないプレーですね。自分の中で、ショットの選択にしても、プレーの内容にしても、

迷いがない。守れるところは守れる体力が、この先あるかわからないですけど、しのぎながらも、最終的には、展開の早さの中での攻撃的なプレーを出すことが一番の強みだと思うので、それができた時。

あとは、ゲームの中でつかんだ流れは、引き離さない。リードしつつも、そこからギアをなかなかグイッというのが出しずらい。自分の中では物足りなさを感じるし、それによって自分のパフォーマンスを下げる要因になっている部分もあると思う。流れをつかめる強さを出したい」

今後、クルム伊達は、彼女が愛するウインブルドンの予選に照準に合わせる。得意のライジングをいかしたカウンターテニスが、グラス(天然芝)コートで一番いきることを彼女はわかっている。もちろん体の故障が、改善されることも条件になるが、調子が上向けば、いいテニスができるはずだと、彼女はできるだけポジティブに先を見据えようとしている。

「不安はあります。テニスをやる以上、できる限り、自分の思い当たるケアをやって、肩とひじにかける一日の時間が以前より多くなっているので、時間が本当に足りないですね。本当に、休む時間も以前より多くしようとしているし、ケアも増えるし、リハビリも増えるし。常に肩とひじの心配をし、このまま当然痛みが無くならず、これと共に戦わないといけない。それにしちゃ、ちょっと痛みは大きい。でも、答えが見つからなかったところから、変化のある始まりの日になったじゃないかと期待したい。信じたいですね」

クルム伊達公子の8年目の選択は、どういった結果につながっていくのだろうか――。

もともとそうであったように、彼女は、残された時間がそう多くないことをあらためてかみしめながら、同時に、限られた時間だからこそ、その瞬間を楽しもうとしながら、自分の可能性を信じられる限り現役再チャレンジを続けていく。

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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