尾行されながら写真撮影した中国人ブロガーの北朝鮮旅行記
インラインスケートも「当たり前」
まさに百聞は一見にしかずである。
私が編集長をつとめる「デイリーNKジャパン」が1月15日から連載中の「中国人ブロガー北朝鮮旅行記」が好評を呼んでいる。人気の理由は、筆者の中国人ブロガーが北朝鮮当局者から尾行までされながら、平壌市内の街角や路地裏で撮影した数十枚におよぶ豊富な写真の数々だ。
インラインスケートを履いた5歳ほどのちびっ子や、ハデ目のヘアアクセで飾った少女たち。品揃えの豊富な食料品店……。日本では「当たり前」過ぎるこうした光景も、ひとむかし前までの北朝鮮では「あり得ない」ものだった。
厳しく思想が統制され、資本主義的な豊かさや浪費は「悪」であると体制が規定してきた北朝鮮では、目立つことは何より危険なことだった。たとえ、在日朝鮮人の親戚がいる家庭であっても、日本から送られた「ぜいたく品」はもっぱら家の中で愉しむものであり、人に見せびらかすのははばかられていたのである。
それが、大きく変わった。どのように変わったかは、「百聞は一見にしかず」である。
消費者ニーズが多様化する北朝鮮
1980年代から2000年代にかけての現地の様子の移り変わりを知る李策氏は、次のように分析する。
「まず言えるのは、消費者ニーズが多様化しているということ。そして、それに応える供給力が育っている。このふたつが噛みあうことで、庶民レベルでの市場経済化が進んでいるんです」
以前の北朝鮮では、国民が消費できる商品はみんな同じであり、自分の「センス」や「好み」を主張できる余地などほとんどなかった。しかし近年、中国から大量のモノが流れ込むようになり、消費を楽しむことが(いくらかなりとも)できるようになったのだ。
行ってみたくなる大衆食堂
では、北朝鮮の人々は、どのように消費を楽しむようになったのか。最後の平壌訪問から10年ほど経つという在日朝鮮人の男性に、写真を見て「変化」の具合を解説してもらった。
「私の目に新鮮に映ったのは、女性保安員(警察官)が、売店でアイスキャンディーをくわえて財布からおカネを出そうとしている写真ですね。保安員と言えば、厳しい社会規律を象徴する存在。それがアイスをくわえて外国人に写真を撮られるなど、以前なら考えられなかった。それにこの女性保安員の立ち姿が、なんだか良い感じに決まっているじゃないですか(笑)」
「あとは、富裕層が住むマンション周辺のルポ。そしてもうひとつ、夜の売店やプレハブで商う大衆食堂です。意外なほど清潔で驚きました。というか、むかし外国人を相手にする食堂は外貨レストランだけで、こんな店はなかったですよ! ひさしぶりに平壌を訪れてみたくなりました」
こうした変化の裏には、金正恩氏がいかに押しとどめようとしても止まらない、市場経済化の波がある。そして、さらにその裏には、貧富の格差の恐ろしいまでの広がりがある。その全体像を見せるべく、出来る限りの努力をしていくつもりだ。