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イチからわかる「朝鮮総連ビル問題」不透明な報道と認識が北朝鮮を有利にする

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

不透明な総連本部ビル問題

在日本朝鮮総連合会(総連)中央本部の土地・建物が、競売で落札した香川県高松市の不動産会社マルナカホールディングスから、山形県酒田市の不動産会社に44億円で転売されたニュースが話題を呼んでいる。

毎日新聞と読売新聞が社説で、総連本部転売の経緯について「不透明だ」「納得いかない」的なことを言っている。確かにそのとおりだ。しかし、不透明なのは報道の内容も同じだった。

それ以外の報道を見ても、総連本部ビルがいったいどういうものなのか、ていねいに解説しているものはほとんどない。「いったい何の騒ぎなの!?」と不思議に思っている向きも少なくないのではないだろうか。

総連本部がどんなものなのか、突っ込んだ取材や解説はあまり見られない。昨年のストックホルム合意を通じて、宋日昊(ソン・イルホ)日朝国交正常化担当大使から「総連本部をなんとかしてくれ」と要求され、政府とマスコミが踊っただけのようにも見られる。

そもそも総連本部など、在日のシンボルなんかではない。そのあたりをデイリーNKジャパンでは、総連の内部資料や関係者の証言を交え、その歴史や実態について詳しく解説しているが、ここではその内容の一部をかいつまんで紹介しておく。

そもそも総連本部とは?

総連本部は東京都千代田区の、法政大学と白百合学園、靖国神社、角川書店に囲まれた位置にある。総連発行のハンドブックによれば、「朝鮮総連と在日朝鮮人の団結の象徴であり、愛国愛族の心の結晶」だという。1986年9月25日に竣工した地上10階、地下2階の建物は、日本の超有名ゼネコンが建設を請け負った。

総連本部はかつて、北朝鮮の実質的な在外公館としての役目を堂々と果たしていた。総連の元幹部によれば、「総連は故金正日総書記の誕生日(2月)や故金日成主席の誕生日(4月)、北朝鮮の建国記念日(9月)に際し、政界やマスコミ関係者を本部に招いて祝賀宴(立食パーティー)を催していた」という。

たとえば、どのような面々が来ていたのか。総連機関紙には社民党元党首の土井たか子氏、元官房長官の野中広務氏、元総理の鳩山由紀夫氏をはじめ、出席者の名前数十人分が列挙されている。

もっとも1997年以降は、テポドン発射(98年)や朝銀信組の資金流用をめぐる強制捜査(01年)、金正日氏が日本人拉致を自白(02年)したことなどが相次いだのを受けて、総連本部は日本の政治家にとって禁断の場所となった。

そして総連本部の土地建物は、朝銀信組からの借金のカタとして整理回収機構(RCC)によって競売に付される流れをたどる。

総連本部がなくなった方がいい?との声も

これに対し、「総連本部は在日朝鮮人コミュニティーの象徴であり、尊重すべき」との声が、北朝鮮や総連ばかりか、日本の一部メディアからも出ている。しかし、当の在日朝鮮人からは、かなり違ったニュアンスの話も聞こえる。前出の元幹部は言う。

「一般の総連会員の、中央本部に対する関心は薄いですね。マスコミではよく、『総連のシンボル消滅か』なんて書いているけど、末端の会員にとってあれほど縁の薄い施設もない。本国に親族訪問する際の手続きは市区町村に置かれた支部でやるし、もろもろのイベント会場も支部か朝鮮学校、あるいはせいぜい都道府県本部。一生に一度も中央本部に足を運ばないという人の方が圧倒的に多い。あの会館の組織行政上の機能は、もっと別の所にあるのです……」

そしてこの元幹部は、「本部ビルなんかなくなった方が、総連はマシな組織になる」とまで言っているのだ。

もっとも、拉致問題をめぐる日朝交渉で北朝鮮から総連本部問題での「善処」を突きつけられた日本政府の苦悩も理解できる。拉致被害者を「人質」に取られたも同然だからだ。

しかし、北朝鮮の金正恩第1書記は昨年、久しぶりに訪朝した総連の許宗萬議長と会おうともしなかったのだ。一般的に言われるように「北朝鮮は、本当に総連を大事に思っているのか!?」 この点については改めて検証が必要だろう。

いずれにせよ、マスコミが、総連に遠慮して突っ込んだ記事を書かないことは、しいては北朝鮮を有利にすることにもつながる。実際、総連がうまく立ち回って本部ビルの維持を確保し、北朝鮮は「ストックホルム合意」の履行を催促してきている。

「ストックホルム合意」前後に盛り上がった「日朝関係が進展する」という盛り上がりは、今ではすっかり尻つぼみとなってしまったが、今年2015年には北朝鮮側から何らかの解答が出てくることが予想される。

どんな解答であれ、またもや総連本部ビル問題が議題に上がるだろう。その時、日本が有利に交渉を進めるためにも、この問題の本質を見極めることが必要とされる。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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