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李雪主氏が「大人の女性」にイメチェン 歌手から北朝鮮の「国母」へ 

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

金正恩氏の夫人・李雪主(リ・ソルジュ)氏が、13日に開催されたサッカー競技を金正恩氏とともに観戦した。観戦の様子は、北朝鮮の公式メディアを通じて報道されたが、今年に入って初の公式活動ということもあって注目があつまった。

サッカー観戦に、深緑のスーツに身を包んで現れた李雪主氏だが、以前のショートカットより大幅に長くなった。胸元のネックレスは、「ティファニー」のキーネックレスと言われている。

普通に捉えれば、一人の女性のイメチェンに過ぎないが、国内外が注目する北朝鮮のファーストレディだけに、何らかの「意図」があると見るべきだ。北朝鮮当局も彼女自身も、世界中から見られていることを充分に自覚しているはず。それを踏まえたうえで、周到な「イメージ戦略」をうちたてて今回のサッカー観戦に臨んだと筆者は見るが、その根拠を述べてみたい。

まず、サッカー競技を観戦した4月13日という日時。故金日成氏の生誕記念日(4月15日)の二日前であり、北朝鮮としては祝賀ムードを絶頂期に高めたい時期だ。サッカー競技もさることながら、観戦する金正恩氏と李雪主氏の注目度も俄然高まる。

装いや振る舞いで、「何かをアピール」するには、ここしかないというタイミングだ。その場にロングヘアーと深緑のシックな装いで登場した李雪主は、見る者に「李雪主氏が変わった」という印象を植え付けただろう。

ちなみに、金正恩氏はサングラスをかけているが、なぜサッカーを観戦するのにサングラスをかけるのかは謎だ

次に、登場以来の彼女の装いをつぶさに見ていくと、その変遷にも明らかな「意図」が感じられる。

李雪主氏は、スタイリッシュなショートカットと色鮮やかなモダンな装いで、北朝鮮のファッションシーンをリードしてきた

一方、金正恩氏の特徴的な刈り上げスタイル「覇気ヘア」の人気はイマイチのようだ。

李雪主氏は、それまでの北朝鮮ではありえなかった装いで、「若々しさ」と「フレッシュ」なイメージを打ち出して公式デビューを果たした。ところが、2013年に第二子を出産してから、そのイメージは徐々に変わっていく。

そして公式デビューから3年目となった今回、ロングヘアーでグッと落ち着いた大人のイメージを打ち出した。デビュー時、鮮やかなグリーン系だったが、今回は深緑でシックな装い。同系色で意図的に「違い」を出していると見るのは、あまりにも深読みしすぎか。

ヘアスタイルや服装などで、デビュー時のイメージから「大人の女性」へのイメチェンを図ろうとしている彼女の狙いは、ズバリ「北朝鮮の国母」の地位を確固たるものにするためと筆者は見る。

極めて封建的な独裁国家である北朝鮮で、国母は重要な意味を持つ。金一族を中心した体制が続く限り、国母の存在は最高指導者に次ぐ権威を持ちながら、北朝鮮の正史に刻まれる。

だからこそ、金正恩氏の実母・高ヨンヒ氏は、愛息を金正恩の後継者にするために後世を捧げた。もちろん、高ヨンヒ氏にしろ李雪主氏にしろ、国母でありつづけるためには、金一族体制が続くという条件がつく。

李雪主氏の大人へのイメチェンを、あくまでも男性特有の穿った目線で切り取ったが、彼女がファッションに対して並々ならぬコダワリを持っていることは間違いない。

ならば、肝心の金正恩氏のプロデュースも彼女自身がした方がいいと思うのだが・・・。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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