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「北朝鮮に全財産を投資したい」と言い切るジム・ロジャーズ氏が目を付けた、あの国の「巨大な変化」の本質

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
平壌の女子大生2人(c)Matt Paish

日本ではあまり意識されていないが、このところ、欧米人の間で北朝鮮に対する注目度が増している。旅行者も昔に比べれば増えているし、商用で平壌を訪れる人もけっこういる。

最近では、英国を代表するロック・バンド「blur(ブラー)」が北朝鮮をテーマにした曲を発表しているが、ボーカルのデーモン・アルバーンさんは2013年に現地を訪れている。

しかしなんと言っても、「北朝鮮びいき」の筆頭は著名投資家のジム・ロジャーズ氏だろう。同氏は数日前にも、CNNのインタビューに対し「できるなら、北朝鮮に全財産を投資したい」と話している。「北朝鮮で巨大な変化が起きている」との認識に立っての発言なのだが、それも今回が初めてではなく、だいぶ前からたびたび語っている。

北朝鮮の経済は、金正恩時代になり「好転」していると一部で伝えられている。

たとえば中国外務省傘下の出版社が発行している外交専門誌「世界知識」は今年に入り、「北朝鮮の最近の経済の改善をどう見るか」と題した記事を掲載。「北朝鮮の市場は活気に満ち、様々な自国製の日用品が続々作られている。平壌や羅先(ラソン)の食堂を訪れる北朝鮮の人も多い」などとして、北朝鮮経済の好転を指摘した。

その根拠は、たとえば次のようなものだ。

「 北朝鮮は、国際社会の制裁を受けているため、外国からの援助、対外貿易、外資などが増加した傾向は見られない。すなわち現在の好景気は、内部の経済活性化によるものだ。 金正恩氏が導入した内閣主導型の経済政策、農業政策が効果を生んでいる」

一方、デイリーNKの北朝鮮内部消息筋や韓国の専門家からは、この見方に対して若干の異論が提起されている。「経済が好転したのはどちらかというと、当局の改善措置よりは住民が市場経済に習熟した結果だ」との指摘である。

実際、北朝鮮当局は最近、市場に対する統制を緩めつつある。従来は50歳以下の女性は市場で商売をしてはならないという年齢制限があった。それが昨年来、まずは地域を限定して廃止され、今年初めからは全国で撤廃されている。

これは、国家としても市場のパワーを認めざるを得なくなっているということだ。

いずれにしても、北朝鮮経済には好転の兆しが見えるということなのだが、もちろん、それですべての問題が解決されるわけではない。最近の活気の裏には、親密さを増しているロシアからの経済支援があるのは確かなのだ。

それでもやはり、筆者は「北朝鮮で巨大な変化が起きている」とするジム・ロジャーズ氏の見方に賛成だ。そして、その「変化」の本質はと言えば、庶民のパワーによる「草の根資本主義革命」であるとデイリーNKジャパンでは分析している。

北朝鮮政府は2002年7月1日、限定的ながら経済改革を実施した。それまで非合法だったヤミ市を自由市場として公営化し、国民の個人事業を認めたのだ。食糧難で国家が配給制度を維持できなくなり、国民に自立を促さざるを得なくなったことが背景にある。

その結果、庶民は少しずつだが私有財産を手にし、自由を楽しむようになった。自由は人々のライフスタイルの多様化、消費者ニーズの多様化につながり、それがまた「草の根資本主義」の発展を促している。近年、韓流ドラマのDVDが闇ルートで爆発的な人気を呼んでいるのも、その結果だ。

だが、北朝鮮政府とて、この流れを指をくわえて見守っているわけではない。なし崩し的に社会変革が起きることを警戒し、規制をゆるめたり強めたりしながら庶民の行動を統制し、同時に彼らの稼ぎを取り込もうと躍起である。

しかしハッキリ言って、金正恩体制が何をしようと、北朝鮮の資本主義化は止まらないだろう。私有財産を握り、商売の面白みを知った北朝鮮の庶民が、少しずつ手にした自由を決して放すはずがないからだ。

そんな庶民たちの抵抗が体制に打ち勝ったときこそ、北朝鮮は本物の変化を迎えるはずだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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