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北朝鮮が潜水艦発射型弾道ミサイル開発に成功か? 開発には「日本企業」の影も

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
弾道ミサイル水中発射実験に立ち会う金正恩氏(2015年5月9日付労働新聞より)

北朝鮮の労働新聞と朝鮮中央通信は9日、潜水艦からの弾道ミサイル水中発射実験に成功したと報じた。発射実験には金正恩第1書記が立ち会った。ミサイルに核弾頭が搭載されることになれば、日米韓にとって脅威になる。

北朝鮮が弾道ミサイル潜水艦と、潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)の開発を進めている、との観測は、昨年から浮上していた。日本ではほとんど報じられていなかったが、韓国メディアは盛んに取り上げていた。

弾道ミサイル潜水艦は核ミサイルを装備し、水中に潜んで敵国の深部をねらう。開発が事実なら、日米韓にとっては厄介な話だ。

昨年10月には、北朝鮮東海岸に面した咸鏡南道新浦の潜水艦工場近くで「物証」が捉えられれている。ジョンズホプキンス大学の北朝鮮分析ウェブサイト「38NORTH」が10月28日、これまで未確認だった潜水艦と、「潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)の垂直発射管実験装置」と見られるとする施設の衛星写真を公開したのだ。

日本での報道が少なかったのは、一連の情報について日本の防衛当局が懐疑的だったためだろうが、しかし一連の情報の真偽を見極めるためには、日本でこそ取材・検証が可能な部分もある。北朝鮮がゴルフ級潜水艦をロシアから輸入した際、取引を仲介したのが東京都杉並区に本社を置く小さな日本企業だったからだ。

北朝鮮が、新型潜水艦を日本の対岸に配した理由は何か。考えられるのは、やはり対米戦略である。弾道ミサイルを搭載して日本列島を迂回し、太平洋から隠密裏に米国本土をねらおうというものだ。

もっとも、それがただちに可能になるわけではない。実現するには、技術的に様々な制約がある。

また、「米国やロシアなどすでに弾道ミサイル潜水艦を運用している国々は、護衛とおとり役を兼ねた攻撃型潜水艦を必ず随伴させている。北朝鮮はそうした潜水艦を持っておらず、現実的な脅威になるかは疑問」(自衛隊OB)との指摘もある。

ただ、北朝鮮はこれまでも、経済的・技術的な制約をものともせず、新たな危機をつくり出してきた。それにミサイル潜水艦の太平洋進出が上手くいくか否かにかかわらず、そうした取組みが続けば、いずれ米国は神経を尖らせることになるだろう。

金正恩第一書記は海軍の視察時に自ら搭乗するなど、潜水艦戦力を重視する姿勢を見せている。正恩氏にとって新型潜水艦は、切り札としての意味を持っているのかもしれない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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