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北朝鮮サッカーに蔓延した八百長と不正腐敗

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
サッカーを観戦する金正恩氏と李雪主夫人(資料写真)

中国で行われているサッカーEAFF東アジアカップ2015で、北朝鮮代表チームが男女で日本に連勝、意外な活躍を見せている。

北朝鮮はかつて、アジア随一のサッカー強国だった。しかし、とくに男子チームは1990年代の半ばから相当な期間にわたり、国際舞台からほとんど姿を消していた。

その最大の理由は大量の餓死者を出した経済難だろう。しかし同じ時期、女子柔道のケー・スンヒ、女子マラソンのチョン・ソンオクらが大活躍していたことを見れば、北朝鮮サッカーの「不在」をまったく経済難だけのせいにすることはできない。

実はこの時期、北朝鮮のスポーツ界には経済難を背景とした不正腐敗が蔓延し、選手たちの実力を蝕んでいたのだ。

たとえば90年代半ば、強豪として知られる朝鮮人民軍傘下の「4・25体育団」は、軍の戦闘用通信システムまで動員した大規模な八百長に手を染めていたという。また、選手選抜では本人の実力より、親の財力を基準に決めていた。それもこれも経済難の中で、チームの維持に必要な物資を確保するためだったという。

そうした事情を知ってみれば、それも仕方のないことだと思えなくもない。生存競争の厳しい北朝鮮において、体育関係者たちはスポーツを武器に、何が何でも生きぬかなければならないのだから。

一方、2013年の東アジアカップで北朝鮮の女子チームが優勝した際、金正恩氏の面会を受けて選手全員が滝のような涙を流す場面があった。選手らは金正恩に会えた感激を表現しようとしたものと見られるが、少し度が過ぎた感じで、まるで慟哭するかのようだった。

厳しいトレーニングを積み、努力の結果としてメダルを勝ち取った彼女らの涙を疑うわけではないが、これが北朝鮮のスポーツ選手らにとって、「生き抜く術」のひとつであるのもまた事実だ。

北朝鮮では、「涙も政治の一部」と言われる。せっかく苦労してメダルを獲ったのだから、国家指導者の前ではできるだけ思い切り泣いて相手を感動させた方が、その後の人生を有利に生きることができるのである。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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