韓流が北朝鮮に根付かせた「新しい愛のカタチ」
金正日体制の監視の目を盗み、北朝鮮の地下マーケットで密かに、そして急速に流通が拡大してきた韓流ドラマのDVD。しかし最近では、当局の取締が強化されたことで、以前ほど大っぴらに視聴できなくなっていると言う。
平壌市に住む、デイリーNKの協力者が話す。
「韓流ドラマの取締は専門の小グループでやっていたが、最近では国家安全保衛部、人民保安部、人民委員会も取締に乗り出している。とくに秘密警察の保衛部が取締に乗り出してからは、今までのように賄賂が通じなくなった」
賄賂が通じないとどうなるかと言えば、軽くて強制労働、重ければ政治犯収容所送りや公開処刑すらあり得るのだ。
そして、北朝鮮当局がとくに神経を尖らせているのが、『ツツジの花が咲くまでに』というタイトルのドラマだ。これは、かつて北朝鮮で「喜び組」に所属し、後に脱北した申英姫(シン・ヨンヒ)さんの手記を原作にしたもの。金正日氏や高級幹部らに奉仕させられていた美女グループ「喜び組」の実態が赤裸々に描かれている。
最近、これを見た大学生が大量に処分されたというが、しかし、それで完全にめげるほど北朝鮮の庶民も大人しくはない。
一部の住民は、韓流DVDに対する取締をかわしつつ、現在は「地下出版本」に趣味を移しているという。国家が「御禁制」とした書籍がアングラで大量に刷られて出回っているもので、ドナルド・ケーガンの『戦争の起源と平和の維持について』、デール・カーネギーの『人を動かす』、北朝鮮国内で出された『秘密戦争』、『人間の証明』、『ソ連偵探史』などが人気を集めているとか。
DVDから書籍に変わってはいるが、これも国家の規制破りには違いない。さらに言うなら、韓流ドラマの影響は、もはや除去することが不可能なほど北朝鮮社会に深く浸透している。
たとえば、北朝鮮には従来「外食」という言葉がなかった。それを、韓流ドラマで聞きかじった一部の人々が生活の中で使い始め、他の住民にも拡散した。今では若い男女が、外食をして愛の告白をする「韓国のような」シーンを街中で見るのも珍しくないという。
こうした新しいライフスタイルを楽しむ人々の思考は、国家の思想統制が厳しかった時代のそれとは大きく異なっているはずだ。北朝鮮国民の「新思考」が、国家そのものを変えることを望む。