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姿を隠した北朝鮮の「戦闘指揮官」たち…韓国への「軍事行動シフト」か

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
錦繍山太陽宮殿を参拝した金正恩氏/2015年8月15日付労働新聞より

8月15日に前後して北朝鮮で行われた「祖国解放(日本統治からの解放)70周年」記念行事に、朝鮮人民軍の軍事行動の中枢を担う最高幹部らが欠席し、韓国政府やメディアの注目を集めている。

金正恩第1書記は同日午前0時、金日成主席と金正日総書記の遺体が安置されている錦繍山太陽宮殿を参拝。その様子を報じた朝鮮中央通信の記事は、「朝鮮人民軍の指揮メンバーが共に参加した」と伝えている。

同時に配信された写真を見ると、正恩氏の両隣に軍内序列1位の黄炳瑞(ファン・ビョンソ)総政治局長と同2位の朴英植(パク・ヨンシク)人民武力部長の姿が見える一方、同3位の李永吉(リ・ヨンギル)総参謀長の姿は写っていない。

朝鮮人民軍では総政治局長が朝鮮労働党による軍の統制を、人民武力部長が軍事行政を担い、実際の軍事行動は総参謀長が統括する。つまり、李永吉氏は北朝鮮軍の戦闘部門の実質的なトップであり、その人物が正恩氏の錦繍山太陽宮殿の参拝に同行しないのはきわめて異例だ。

さらに、7月27日の「戦勝節」(朝鮮戦争休戦)の参拝には参加していた金英哲(キム・ヨンチョル)偵察総局長も、参拝に同行しなかった。同氏の担当は、韓国などに対する軍事工作の指揮であり、韓国海軍の哨戒艦撃沈や米ソニーピクチャーズに対するサイバー攻撃も、彼が「黒幕」ではないかと疑われている。

李氏と金氏はともに、8月14日の「祖国解放70周年中央報告大会」にも参加していない。

果たして、彼ら戦闘部門トップが公式行事に姿を現さない理由は何なのか。

北朝鮮の最高指導者に就任して以来、父親である金正日氏の7倍のペースで側近らを「殺戮」しているとされる正恩氏だが、この時期に、戦闘部門トップを処刑したり更迭したりする可能性は低い。

考えられるのは、韓国に対する軍事行動シフトだ。

北朝鮮は、韓国が「地雷爆発」事件に対する報復として開始した政治宣伝放送の中止を求めており、韓国が応じない場合には「無差別な打撃戦」を開始すると威嚇している。

また、17日から始まる米韓合同軍事演習についても「軍事行動」を示唆している。

こうした情勢を踏まえ、北朝鮮の戦闘部門トップは重要行事にも出ず、司令部に張り付いているのかも知れない。

一方、韓国軍側は北朝鮮側のしかけた地雷により兵士が吹き飛ぶ動画を公開するなど、復讐心を露わにしている。

朝鮮半島の軍事情勢から目が離せない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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