Yahoo!ニュース

韓国軍、金正恩氏の「斬首」を計画…核の脅威の前で手段を選ばず

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
韓国陸軍(資料写真/韓国国防省より)

北朝鮮の金正恩第1書記は、最近開かれた朝鮮労働党中央軍事委員会拡大会議で、改めて核兵器への執着を示した。最近の韓国との軍事的緊張が対話によって落着したのは、「偉大なわが党が育んできた自衛的核抑止力を中枢とする無尽強大な軍事力」によるものであると述べたのだ。

正恩氏は、南北対話がすべて北朝鮮側の「成果」によるものであったかのように宣伝しているが、実際には韓国との「チキンレース」で敗れただけであることは本欄でも述べたとおりだ。

また、正恩氏が「準戦時状態」を宣言しても、首都・平壌ではさっぱり士気が上がらなかったのに対し、韓国国民を対象とした世論調査では19歳以上のうち83%が、「戦争が起きたら参戦する(男性)」または「戦争支援する(女性)」と答えた。

それでも、北朝鮮が実質的に核武装している事実が、韓国や日本をはじめとする周辺国にとって厄介きわまりない話であるのは間違いない。

北朝鮮の核開発の危険性は、核弾頭の運搬手段である弾道ミサイル開発とワンパッケージで語られることが多い。それと同じ文脈で、北朝鮮の核兵器が危険になるのはミサイルに搭載できる程度に「小型化」が進んでからだ、と見るような雰囲気もある。

しかしそれは、北朝鮮から太平洋を隔て、遥か彼方に位置するアメリカにとっての話だ。北朝鮮が韓国を核で威嚇するのに、弾道ミサイルなど必要ない。地上ルートや地下道で極秘裏に韓国の間近にまで運ぶことができれば、韓国軍にたいへんなダメージを与えることができる。これは日本にとっても同様で、船や潜水艦で日本近海にまで接近し、自爆などすれば、日本の株式市場に強烈なショックを与えられるだろう。

こうした状況を重く見た韓国軍は、正恩氏らに対する「斬首作戦」を計画している。正恩氏が核のボタンに手を伸ばしそうになれば、もはや彼の命を直接狙うしかないとの判断である。

実際、韓国軍は正恩氏が北朝鮮国内のどこに隠れていても狙うことができる、新型弾道ミサイルの配備を進めている。

もっとも、弾道ミサイルでひとりの人間をピンポイントで殺害するのは極めて難しく、北朝鮮内部の協力者が絶対に必要だ。つまり、「斬首作戦」はスパイ工作と同時並行で進められる。これに対し、北朝鮮側もさっそく反応している。

北朝鮮の対南宣伝サイト「わが民族同士」は、「斬首作戦」に対して「露骨な裏切りであり、民族の統一への熱望を踏みにじる耐え難き冒涜行為」と厳しく非難している。南北合意では事実上の敗北を喫した北朝鮮だが、建国記念日(9月9日)や朝鮮労働党創建70周年(10月10日)を控えて、金正恩体制への忠誠心と求心力を高めなければならないこの時期、「最高尊厳(金正恩氏)の首を斬る」作戦など、その過激な名称も含めて絶対に看過出来ないといったところか。

来月7日からは、南北合意にもとづいて離散家族再会の南北赤十字実務協議が行われる予定だが、金正恩氏の「核抑止力」発言と韓国軍の「斬首作戦」が思わぬ火種になる可能性もある。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

高英起の最近の記事