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金正恩氏がポエムで賞賛する発電所に北朝鮮住民そっぽ

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏は水力発電所を熱心に現地指導しているが…(参考写真)

北朝鮮の国営メディアは、金正恩第一書記が、完工を控えた「白頭山英雄青年発電所」の建設場を現地指導したことを報じた。このなかで、金正恩氏は、完工した発電所1号機を眺めながら「本当に壮大だ、美男子のようにスマートだ」と賞賛した。

しかし、金正恩氏の賞賛と違い、北朝鮮の電力事情は相変わらず悪いようだ。

7月には、金正恩氏の鳴り物入りで建設された平壌市内の「紋繍(ムンス)プール」で異臭騒ぎが起きた。原因は、電力不足による「停電」で水の浄化装置が稼働されなかったからだ。また、プールの中で放尿する子どもたちも多く、さらに異臭がひどくなった。

平壌市内の外国の大使館でも電力不足に悩まされている。米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)によると、平壌に常駐するスイス開発協力庁のトーマス・フィスラー所長は「比較的優遇されている平壌市内の外国の大使館でも1日に3~4回停電している。昨冬の電力難は厳しく、数時間停電が続いたり、1時間毎に停電した」と語った。

電力不足の原因は、北朝鮮が「水力発電」への依存度が高いことにある。北朝鮮には、日本の植民地時代に作られた多くの水力発電所が存在する。しかし、元々降雨量が少ない気候ゆえに水力発電は安定せず、慢性的な電力難の要因となっている。

こうしたなか、北朝鮮住民の間では「ソーラーパネル」が注目されている。今年4月に訪朝した旅行者は「「民家にも通りにも、驚くほど大量にソーラーパネルが設置されていた。開城市内の外灯も多くがソーラーパネル式になっていた」とデイリーNKジャパンに語った。

つまり、北朝鮮住民でさえ国家が進める水力発電を見切っているわけだ。それにも関わらず、「嵐のごとく疾走する白頭青春の英雄的気概と偉勲よ」とポエムのように水力発電所を賞賛する金正恩氏に対して、住民がどのような目で見ているのかは推して知るべきだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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