落書きから始まる北朝鮮革命
安倍首相のポスターに、口ひげの落書きをするなどのいたずらが各地で相次いでいるようだが、北朝鮮でも政治ポスターに落書きする事件が相次いでいる。
米政府系のラジオ・フリー・アジアによると、「9月9日の共和国創建70周年記念日を勝者の大祝典で輝かせよう」と書かれたポスターの「勝者」が消され「敗者」に書き換えられる事件が起きた。この落書きの裏には、北朝鮮体制への強烈な抗議の意志が込められている。
想像できないかもしれないが、北朝鮮で政治的な落書きが発覚すれば、日本のように「器物損壊罪」などという生ぬるい罪状では済まされない。反政府行為として、背景を徹底的に調べあげられ、場合によっては政治犯扱いだ。
もっとも、こうした落書き事件は今にはじまったわけではない。
2011年、地方人民会議の代議員候補者の選挙ポスターに「李明博を支持する」と落書きされる事件が発生した。北朝鮮が傀儡国家と罵倒する韓国の李明博大統領(当時)を支持するという文言は、当時の故金正日総書記に対する強烈なあてつけであり、抗議のアピールだ。
最近では5月に、北朝鮮の最高学府といわれる金日成総合大学の近所で「金正恩政権は残忍な処刑を行っている」「金正恩は父金正日より百倍ひどい人殺し」という落書きが見つかった。治安当局は筆跡鑑定までして捜査を行ったが、この落書きは時期的に見て、ある二つの公開処刑に対する抗議と見てまちがいない。
1つ目は、昨年10月に、正恩氏に異議を唱えたとして15人の当局者が大口径の高射銃を乱射されて公開処刑された事件だ。人体を文字通り「ミンチ」にするやり方は、衛星画像によっても確認されている。
二つ目は、5月に行われた玄永哲人民武力相の公開処刑。この時も、玄永哲氏は高射砲で人体が跡形もなく吹き飛ぶほどの方法で処刑されているが、実生活の中で公開処刑を見聞きする北朝鮮の民衆でさえも、さすがに金正恩氏の残虐な処刑方法に怒りを禁じ得なかったようだ。
たかが落書き、されど落書き。危険を顧みず「落書き」で権力への抗議を表明する民衆たちの行動は、必ずや北朝鮮の変革につながっていくだろう。