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姿を消していた“張成沢処刑”の仕掛け人が復活

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
赤丸で囲った人物が馬園春氏(2015年10月8日付労働新聞より)

姿を消していた金正恩第1書記の側近中の側近が、再び姿を現した。その人物とは馬園春(マ・ウォンチュン)氏。

北朝鮮の労働新聞(10月8日付)は、金正恩第1書記が洪水被害の復旧作業が羅先市先鋒地区を視察したことを報道。同行者の一人として馬園春国防委員会設計局長の名前があった。

馬氏は、白頭山建築研究院出身で金正恩氏が力を入れてきた「北朝鮮式ハコモノ行政」を支えてきた人物だ。金正恩時代を代表する遊園地やスキー場などレジャー施設の設計、資材の調達、建設のすべてを総括していたと言われている。さらに、2013年の張成沢処刑を企画立案し、実行したグループ「三池淵組」の一人でもある。

張成沢処刑後は、金正恩氏の公式活動に頻繁に同行し、まさに我が世の春を謳歌していたが、昨年11月以後、公式の場から一切姿を消し、様々な憶測を呼ぶことになる。

馬氏が姿を消す直前の10月には、金正恩氏に異議を唱えたとして15人の当局者が大口径の高射銃で処刑された。これは衛星画像によっても確認されているが、時期からして馬氏もこの粛清の嵐に巻き込まれた可能性があるとの説もあった。

さらに今年4月末、「会議での居眠り」を理由に玄永哲元人民武力相(国防大臣)が、高射砲で人体が跡形もなく吹き飛ぶほどの方法で処刑されたことから、馬氏も処刑されている可能性が高いと見られていた。

その後の様々な情報を照らし合わせると、処刑されずに山奥へ追放されていたようだ。しかし、9月には中央への復帰を伝えられ、喜びのあまりショックで死亡したなどの情報も流れるが、今回姿を現したことで公式に追放処分が解かれたことが明らかになった。

金正恩氏が、馬氏の追放を解きさらに復帰させたのは、彼が力を入れる「北朝鮮式ハコモノ行政」に欠かせない人材だからだろう。加えて筆者は、国際社会に定着した「金正恩氏は残虐な指導者」というイメージを払拭させる狙いがあると見る。一度、粛清した人物を復帰させる「慈悲深い指導者」といったところか。

しかし、金正恩氏は、先に述べた幹部15人の処刑や元人民武力相・玄永哲氏の無慈悲な処刑だけでなく、「俺のズボンをマネするな!」とブチ切れたりスッポン工場での激怒ぶりを動画で公開してさらに支配人を銃殺している。

「残虐な指導者」のイメージをくつがえすのは並大抵のことではない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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