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同窓会までも「血の粛清」…北朝鮮「人権侵害」の実態(1)

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

国連総会は17日(米東部時間)、北朝鮮の人権侵害の責任追及を求め、この問題を国際刑事裁判所(ICC)へ付託するよう国連安全保障理事会に促す内容を柱とする決議案を採択した。決議案は日本とEUが共同提出したもので、賛成119票、反対19票、棄権48票の圧倒的な結果である。

決議の内容には、日本人拉致問題の解決も含まれている。北朝鮮に対するこうした圧力は年々強まっており、人権問題を巡る包囲網の形成は、拉致問題の解決を願う日本国民と、人権蹂躙に呻吟する北朝鮮国民の共通の利益に適うものだ。

ところで、北朝鮮における人権侵害とはどのようなものか。国連決議は、2014年3月17日に国連人権理事会に提出された「北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)」の最終報告書に基づいている。

これから何回かにわけて、同報告書の内容を抜粋しつつ、北朝鮮における実態について解説していきたい。

報告書はまず、北朝鮮における思想や表現の自由の侵害について、次のように指摘している。

北朝鮮の歴史全体を通じて、同国の最大の特徴のひとつは情報の絶対独占と組織された社会生活の全面的な統制を要求してきたことである。調査委員会の所見では、思想、良心及び宗教の自由に対する権利ならびに言論、表現、情報及び結社の自由に対する権利はほとんど完全に否定されている。

これは、多くの読者が持つ北朝鮮のイメージと一致するものだろう。報告書はまた、「北朝鮮はさらにプロパガンダを用いて、日本、米国及び韓国といった公式な国家の敵及びその国民に対する国家主義的な敵意を駆り立てている」ことについても問題視している。こうした行為が、最高指導者(首領)への絶対服従を作り出すためのものであると見ているわけだ。

最近では、米国のオバマ大統領を人種差別的な表現で罵倒するなど、その悪質さはいっそう増してきていると言える。

(参考記事:北朝鮮が差別表現でオバマ氏を罵倒する理由

では、こうした国家の思想統制やプロパガンダから逃れようとしたらどうなるのか。報告書は、次のように指摘している。

国家の監視は全国民の私生活に浸透しており、政治体制及び指導者に対する批判的な意見はほぼ必ず察知されるよう担保されている。「反国家的な」活動をしたり、異議を表明したりした国民は処罰される。こうした「犯罪」の疑いのある国民を通報すると報奨が与えられる。

国民の人権が無視されている北朝鮮で、権力はまさにやりたい放題だ。人権など無視して当然だから、秘密警察が行う盗聴や強制捜査にも制限がない。そして、そうした徹底した監視が自由のさん奪につながる悪循環を生んでいる。

(参考記事:北朝鮮当局、抜き打ち家宅捜査に盗聴器使用し住民を統制・監視

そして国民は、秘密警察が怖くて「同窓会」すらろくに開けない。大勢で集まっただけで「謀議」を疑われ、場合によっては「死」につながる不利益を被るからだ。

(参考記事:同窓会を襲った「血の粛清」…北朝鮮の「フルンゼ軍事大学留学組」事件

その一方で、報告書が指摘できていない現実もある。北朝鮮の国民は、体制によってすっかり洗脳されているわけではなく、心の中での自由と抵抗力は保っているということだ。

北朝鮮当局は最近、あらゆる職場に「組織生活検閲隊」を作り、主として30代の職員を対象にした思想教育、思想検証を厳しく行っている。問題のある者は保安署(警察)に引き渡し、法的に罰を受けさせるという徹底ぶりだ。しかしそうした取り組みがなされるのも、若年層を中心とした人々が思想の統制を受け入れず、徐々に体制の手に負えなくなっているからに他ならない。

北朝鮮には言論の自由など存在せず、体制を皮肉ることなど決して許されないが、それもオモテの話だ。そのウラ側で人々は、当局が体制引き締めのために繰り出す政治スローガンを、ことごとくブラックユーモアに変換する「自由」を持っている。

(参考記事:金正恩氏が恐れる「北朝鮮ジョーク」の破壊力

北朝鮮の人権侵害に反対するということは、こうした人々の「自由」を大きく伸ばし、彼らの力による変革を促すということなのだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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