「差別」と「性的暴力」が横行…北朝鮮「人権侵害」の実態(3)
北朝鮮は、社会には差別がいっさい存在せず、あらゆるセクターで平等な権利が十分達成され、実施されている国であると自称している。
言うまでもなく、大ウソである。「北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)」の最終報告書(以下、国連報告書)はこの点を厳しく指弾している。また、同報告書に基づく決議が国連で昨年に続き今年も採択されたことで、北朝鮮が「差別のひどい国」であるということは世界の常識になった。
国連報告書がとりわけ問題視しているのが、「出身成分」による差別と女性差別だ。
(参考文献:北朝鮮における人権に関する国連調査委員会の報告/B.差別)
「出身成分」は、「親の職業は何であるか」「過去、身内に反体制分子はいなかったか」など、出自や家庭環境をもとに国民を上から「核心階層」「動揺階層」「敵対階層」の3階層に分け、それをさらに50前後のカテゴリーに細分化したものだ。北朝鮮国民はそのうちのどこに属するかによって居住地、職業、食料の入手、公共サービスにおいて大きな差をつけられてきた。中でも「敵対階層」は政治犯収容所に送られるなど粛清のターゲットになっており、多くが虐待の中で凄惨な死を遂げている。
もっとも、近年では状況に変化も見られる。北朝鮮では、久しく前に計画経済と配給制度が崩壊。国民を食わせられなくなった国家は、人々に自活させるため、なし崩し的に資本主義的な市場ビジネスを認めた。そして、市場ビジネスでは個々人の才覚による優勝劣敗が鮮明になっており、「出身成分」など関係なしに「ノースコリアン・ドリーム」をつかむ、新興の「社長階級」が出現しているのだ。
(参考記事:社長になって「ノースコリアン・ドリーム」をつかめ!)
さらに、金正恩第1書記の「出自」もまた、「出身成分」を形骸化させる可能性を秘めている。彼の母親である高ヨンヒ氏は大阪生まれの帰国者だ。本来、大部分の帰国者は「敵対階層」に位置づけられ、権力に近付くことさえ難しかった。そんな血筋を「王朝の血統」の中に取りこんでしまった金正恩体制は、大いなる矛盾に悩んでいるフシがあるのだ。
(参考記事:金正恩と大阪を結ぶ奇しき血脈(1)すべては帰国運動からはじまった)
一方、女性に対する差別はどうか。国連報告書はこの問題に非常な関心を寄せている。その詳細については次回から述べるが、象徴的な事例として、北朝鮮の軍隊内で横行する性的暴力に関する、脱北女性らの告発がある。
(参考記事:十代で売られる少女、軍隊内での性暴力の横行…人権侵害の告発を始めた北朝鮮の女性たち)
彼女らによれば、北朝鮮には「性的暴力」という言葉すらない。自分たちが受けた被害が人権侵害だと気づいたのは、脱北して韓国に入ってからだったという。また、そうした状況は別の形態の人権侵害にもつながっており、問題をいっそう深刻にしている。