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北朝鮮のミサイル発射のターゲットは中国か

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

北朝鮮が長距離弾道ミサイル発射実験を行うことを明らかにした。

国際電気通信連合(ITU)によると、北朝鮮が2日、「地球観測衛星『光明星』を打ち上げる計画がある」と通告したという。打ち上げ期間は、2月8日から25日の午前7時(日本時間同7時半)から正午(同午後0時半)の間だ。人工衛星の打ち上げと称しているが、2012年の「銀河3号」と同じく、長距離弾道ミサイルの発射実験とみて間違いない。

(参考記事:モランボン楽団は金正恩氏の「ワナ」だった!?

打ち上げ期間は、今月8日から25日となっている。発射日は天候にもよるが、人工衛星の名称「光明星」からも金正日総書記の誕生である2月16日(北朝鮮では「光明節」といわれている)前後が、最も可能性が高いと見られている。ちなみに、2012年12月12日の「銀河3号」の翌年、2013年の2月12日に第三次核実験を行っていることを鑑みると、12日周辺は最も警戒すべき日かもしれない。

過去、北朝鮮はミサイル発射→核実験というパターンを繰り返してきた。今回は、先月6日の核実験が既に行われたことから、これまでにないパターンと見られている。一方で、昨年には実戦配備には時間がかかると見られているが、潜水艦弾道ミサイルの発射実験を3回行い、うち1回は成功している。いずれにせよ、北朝鮮は核とミサイルをワンセットで捉えながら米国をはじめとする国際社会にアピールする戦略であることに変わりはない。

(参考記事:【動画】北朝鮮、潜水艦ミサイル動画を公開…発射成功が確認される

今後、各メディアは核実験と長距離弾道ミサイル発射について、「米国との対話が狙い」と、いつもながらの見立てを展開する思われる。もちろん、北朝鮮が国家戦略の柱として米国との直接対話を狙っていることは間違いない。

その一方、本欄では繰り返し指摘しているが、今回の核実験とミサイルは中国をターゲットにしているふしがみられる。狙いは、中国からの経済支援を取り付けるというレベルのものではなく、中国を「出口なき核ゲーム」に引きずり込むためだ。核実験が「第一の矢」とすれば、ミサイル発射は「第二の矢」か。

(参考記事:金正恩氏は中国に「核のワナ」をしかけたのか

北朝鮮が、ITUに人工衛星打ち上げ計画を通告した2日、北朝鮮の核問題をめぐる6か国協議で議長を務める中国の武大偉朝鮮半島問題特別代表が平壌を訪問していた。核問題について議論するためと見られるが、もちろん武大偉氏は、長距離弾道ミサイルの発射についてもやめるよう要求するはずだっただろう。

しかし、北朝鮮はその当日にミサイル発射を通告。金正恩第一書記は、モランボン楽団公演キャンセルに引き続き、またもや中国の顔に泥を塗ってしまったわけだ。ここまでくると、偶然というよりも意図的とみるべきだ。

武大偉氏が北朝鮮を訪れたということは、中国側はなんとかして北朝鮮を手なずけたい、もしくは核とミサイルを断念させるためにアプローチしている姿勢を国際社会に見せたい思惑があるように思われる。一方、北朝鮮側はそうした中国の思惑をことごとく裏切っている。

中朝関係の修復は、当分の間は難しい。同時に、金正恩体制は自ら孤立の道を進もうとしている。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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