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北朝鮮制裁で金正恩氏を追い詰められるのか

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

3日未明、ニューヨークの国連本部で、北朝鮮の第4次核実験と長距離弾道ミサイル発射に対する国連安全保障理事会の新たな対北朝鮮制裁決議案の採決が行われ、全会一致で採択された。

今回の制裁で、最も注目されるのが北朝鮮の中国向け資源輸出に対する制限であり、これは北朝鮮にとって致命的なダメージになる可能性を含んでいることは既に本欄でも指摘している。北朝鮮が地下資源の輸出によって、中国から得られる総額は、韓国が操業を停止した開城工業団地で得られる外貨を大幅に上回るからだ。

(参考記事:中国は本気で金正恩氏を追い詰めるのか

こうした状況からすれば、金正恩体制は極めて不利な立場に追い込まれているように見える。その一方で忘れてならないのは、北朝鮮は制裁下でも核実験と長距離弾道ミサイルの発射実験を強行し続けたという事実だ。

北朝鮮は第1次核実験を強行した2006年以後、10年間にも及んで国連の制裁を受けている。それにもかかわらず今回も含めると3回の核実験と、それに合わせてミサイルを発射し続けてきたのだ。

今年1月の核実験直後、国連安保理傘下の対北制裁委員会の専門家パネルが、国際社会の制裁の実効性がなくなっているという調査報告を出している。

今回の決議も、ロシアの要請によって、2日に予定されていた採決が1日延期。さらに決議案の内容の一部が緩められるなど、国際社会全てが北朝鮮に対して、厳しく望むとは限らない。

(参考記事:対北朝鮮制裁に待ったをかける金正恩氏の「仲間」たち

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、北朝鮮と貿易を行う関係者は、制裁の具体的な内容を見たうえで、「制裁決議案には、原油輸出禁止と海外への労働者派遣を禁止する条項が抜けている」と指摘している。つまり、骨抜きになる可能性があるということだ。

(参考記事:対北制裁は骨抜きにされる可能性…北朝鮮情報筋が明かす

金正日総書記から金正恩第一書記に引き継がれた核・ミサイル戦略は、北朝鮮にとって体制存続をかけた国家戦略だ。これを放棄、または方針転換させるのは並大抵ではないが、かといって手がないわけではない。

日本ではなにかと核とミサイルに焦点があてられがちだが、国連ではこの間、北朝鮮の「人権侵害」について盛んに議論され、圧力を強める方向へ動いている。また、北朝鮮自身もこの問題で追及されることに過剰な反発を示している。核とミサイルの取引は出来ても、三代にわたって続けられてきた人権侵害の罪は、取引できるわけもなく、そう簡単に精算もできない。

金正恩体制の強硬路線をストップさせるためには、彼ら自身が「このままではたちゆかない」と認識し、変化せざるをえないような環境を作り出すことが必要だ。そのためにも「人権問題」における圧力は欠かせない。

(参考記事:金正恩氏が「暴走」をやめられない本当の理由

(参考記事:北朝鮮外相、「脱北者は日米韓が拉致した」…国連人権理事会ボイコットを示唆

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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