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金正恩氏を脅かす反政府ビラ「父親より百倍ひどい人殺し」

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

北朝鮮の首都・平壌は36年ぶりの朝鮮労働党大会(第7回)を5月6日に控えて事実上封鎖され、厳戒態勢に入った。そんな中、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、「反政府的」な事件が相次いで発生しているという。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の内部情報筋によると、4月15日の太陽節(故金日成主席の生誕記念日)の夜中に、清津(チョンジン)市浦港(ポハン)区域の北郷洞(プッキャンドン)の洞事務所(役場)の掲揚台に掲げられていた、北朝鮮国旗が何者かに盗まれた。

北朝鮮で国旗の毀損、窃盗は、反逆罪で処刑されることもある重大な政治犯罪だ。政治ポスターを破損させたり、持ち帰ってトイレットペーパーとして使うのとはワケが違う。

(参考記事:「金正恩ポスター」をトイレットペーパー化する北朝鮮大衆

太陽節と党大会を控え、厳戒態勢を敷いている中で起きた事件だけに、中央と地方の司法当局は、要員を総動員して捜査に乗り出した。

残忍さ増す粛清

実は、昨年9月9日の建国記念日にも、両江道(リャンガンド)で国旗掲揚台から国旗が外され、代わりに黒いビニール袋が弔旗のように吊り下げられる事件が発生していた。

さらに今月12日には、清津のすぐ南にある鏡城(キョンソン)郡で、反政府的な内容が書かれたと思われるビラが撒かれる事件も発生した。

詳しい状況は明らかになっていないが、道の保衛部(秘密警察)と保安局(警察)は「筆跡調査」に乗り出し、全住民に原稿用紙10枚の文章を自筆で書かせ、提出させた。しかし3回繰り返したにも関わらず、捜査は進展せず、結局は犯人の逮捕には至らなかった。

北朝鮮の治安機関は、反政府ビラが発見されるたびに、こうした筆跡調査を行う。昨年4月、次のような落書きが見つかった時も大々的な筆跡調査が行われた。

「金正恩政権は残忍な処刑を行っている」

「金正恩は父金正日より百倍ひどい人殺し」

「米軍歓迎。お前ら(金正恩氏)は出て行け」

(参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」…残忍さを増す北朝鮮の粛清現場を衛星画像が確認

今回のビラの内容は伏せられているが、当局が筆跡調査を繰り返していることを考えると、金正恩氏に対する批判が書かれていた可能性もある。

北朝鮮の住民は、太陽節と党大会に向けた準備作業や、大増産運動「70日戦闘」などで頻繁に動員され、休日にもまともに休めない状況が数ヶ月間続いている。そこに加えて、経済制裁による不況が追い打ちをかけていることが、相次ぐ反政府的な動きの背景にあると思われる。

(参考記事:金正恩氏が恐れる「北朝鮮ジョーク」の破壊力

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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