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北朝鮮の「女性虐待」を放置してはならない

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

国連人権高等弁務官事務所が、7月で任期が切れるマルズキ・ダルスマン北朝鮮人権報告者の後任候補者を発表した。後任は、6月13日~7月1日に行われる第32回国連人権理事会で決められる。

(参考資料:北朝鮮人権報告者の候補者リスト【英文】

候補者はアジア、アフリカ、南米、ヨーロッパから選ばれた8人。そのうち1人が女性だ。

ダルスマン氏の後任については以前、「東アジア出身の女性が選ばれるのではないか」との観測が出ていた。北朝鮮では女性に対する人権侵害が横行しており、女性の特別報告者がその問題に鋭く切り込むことが期待された。

軍隊内でも性暴力横行

今回、唯一の女性候補者となったソーニャ・ビセルコ氏はセルビア出身であり、事前の観測は外れた感があるが、問題の重要さは変わらない。

北朝鮮社会においては、儒教的で男性本位な社会の雰囲気のせいで、女性に対する性暴力は問題視されてこなかった。軍隊内や職場内で性的暴行の事実が明らかになった場合は、むしろ被害者である女性が侮辱されたり不利益を受けたりするので、女性は沈黙するしかないというのだ。つまりは2重の被害である。

また、成人女性でさえそうなのだから、被害児童の境遇は想像を絶する。

(参考記事:北朝鮮で児童への性犯罪が深刻…「表面化していないだけ」

さらに問題なのは、そのようなひどい境遇に置かれても、そもそも人権の何たるかを知らないために、自分が人権侵害の被害者であるということにすら気づかないというのだ。

(参考記事:脱北女性、北朝鮮軍隊内の性的暴力を暴露「人権侵害と気づかない」

これは恐らく、女性に限ったことではあるまい。

近年、情報鎖国として知られた北朝鮮にも、海外から様々な情報が流入している。韓流ドラマやハリウッド映画のビデオを見ながら、自国と海外との自由の格差を認識しているのだ。

ただ、自分たちが人権侵害の被害者であると認識し、それに打ち勝つために立ち上がるまでには、これからも様々な支援と努力が必要だろう。そしてそうした努力は、金正恩氏の暴走を食い止める本質的な取り組みにもつながっていく。

金正恩氏らを「人道に対する罪」に問う可能性を指摘したダルスマン氏は、北朝鮮の体制を大きく動揺させた。ダルスマン氏の後任となる報告者の活躍に期待したい。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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